インドネシア高速鉄道、一転「国費投入」の理由 国営企業の出資が不足、「準高速」に変更も?

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しかし、PN Ⅷには債務超過という大問題があった。国営企業と一括りにいっても、株式上場しているWIKAや、非上場でも着実に黒字を計上しているKAI(2019年度決算で営業利益は約3兆ルピア=約249億円)など優良企業がある一方、依然赤字体質が改善しない会社も多くある。特にPN Ⅷは、主力である茶の生産に問題が生じており、茶畑は荒れ放題になっている。そこで、ワリニ開発を起死回生のチャンスと見据えていた。

ただ、政府は今回の融資先にPN Ⅷではなく、KAIを選んだ。この結果、KCICの筆頭企業はWIKAからKAIに変化した。

実はこれを匂わす動きは昨年4月にあった。KCIC社長がワリニ駅の建設計画を白紙に戻し、代わりに在来線に接続するパダララン駅を設置すると発表したことだ。

テガルアール駅からバンドン市内までのアクセスは非常に悪く、距離の割に車で1時間弱を要する。国産AGT(新交通システム)を建設して市内中心部と結ぶ案も存在したが、国産化計画が頓挫したため、この問題は解決していなかった。

そこで、KAI在来線のパダララン駅に隣接して高速鉄道の駅を設置して市内へのアクセスを確保することにした。在来線にいわゆる「新幹線リレー号」を運行し、KAIバンドン駅との間を20分ほどで結ぶ。KAIはすでに、このリレー号用の気動車を用意している。

中国からの融資に影響を懸念?

一方、ワリニ駅が凍結されたことから、PN Ⅷはインドネシア国営企業コンソーシアムに残る意義をこの時点で失っていた。問題はこのPN Ⅷの出資費用を誰が肩代わりするかで、もしコロナ禍が存在していなければ、KAIを中心に残る3社が出資した可能性はある。

「リレー号」用の気動車。ソロ―ジョグジャ間の電化開業で余剰となった気動車を転用して用意した。塗装はKCICに合わせている(筆者撮影)

この半年の間に、政府、そしてコンソーシアム企業は出資額不足の問題を巡り、揺れ動いたことが推測され、苦肉の策としての国費拠出に至ったのではないか。

これまでもインドネシア側の手続きの遅れから、中国国家開発銀行からの融資が滞る場面がたびたびあった。今回のKCICに対する出資額不足も、これ以上の出資期限延長を中国側が認めていないと報じられており、今後の中国からの融資、ひいては工事進捗に影響が大きいと判断し、昨年11月のタイミングで国家予算が投入されたものと筆者は見ている。

もちろん、4.3兆ルピアの拠出で万事解決したわけでもない。この膨れ上がった建設費をどうカバーするのか。総工費113兆ルピアは40年で返済できると試算されているものの、増額分を中国国家開発銀行が追加融資するのかどうかは明らかでない。

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