「資源高でデフレ」になるGDPデフレーターの罠 「デフレの正体はインフレ」という理解が必要だ

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すでに述べたように、GDPデフレーターは「付加価値1単位を生産することにより得られる所得金額」の概念であり、直感的にそれは日本人の感じる「豊かさ(ないし貧しさ)」に直結しそうである。おそらく、「デフレ」という感覚の大小にも一致するだろう。輸入財価格主導で交易条件が悪化し、日本人の所得が海外(資源国)へ流出することで人々の覚えるデフレ感が強まってきたという総括はさほど的外れではあるまい。

なお、交易条件の悪化が「豊かさ」を抑制してきたという事実を確認する方法はGDPデフレーターを見る以外にもある。今回はGDPデフレーターの重要性を解説するのが趣旨であるため回りくどい説明となったが、そもそも実質賃金は①労働生産性、②交易条件、③労働分配率に分解される。

(4)のグラフはこの関係を基に、日本における時間当たり実質賃金の前年比変化率の累積を寄与度分解して見せたものだ。労働分配率もさることながら、交易条件の悪化が実質賃金の伸びを押さえてきたことがよくわかる。資源高に起因する部分は当然大きいが、何か困ったらすぐに円安を万能薬のように崇め奉ってき経済政策にも責任の一端はある。

「デフレの原因はインフレ」という理解

今後、日本でも資源価格主導で輸入物価が押し上げられ、指標性の高いCPIやPPIを用いてインフレ到来が取りざたされるはずである。だが、日本経済において人々が感じてきた「豊かさ」の低下、言い換えれば「デフレ」感はそうした資源高による交易条件悪化に主導されてきたという歴史がある。

だとすれば、前述のようにGDPデフレーターを「デフレ脱却」を判定する基準にしたことで、中身をよく理解し分析しない人々が、資源高で生じた交易条件の悪化によるGDPデフレーターの下落を、国内財の価格下落によるものと見誤った面もあるのではないか。

こうした事実を少々ラフに総括すれば、「デフレの原因は(資源の)インフレ」と言うこともできるかもしれない。資源価格主導で上昇するCPIが望ましくないのは周知の事実だが、それをGDPデフレーターの下落がより率直に示している事実も知っておきたい。
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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