尖閣諸島の緊張は、むしろ高まっている マイケル・グリーン氏に聞く日中関係の今後

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尖閣諸島問題に関しても、日本は中国側の圧力に屈するつもりもない。つまり、どちらの問題も譲るつもりはないものだった。

そのような状況で、日中両国の面子を立てる策が必要だったわけだ。このうち靖国問題について安倍首相とその関係者たちがどういう話をしたかは分かりかねるが、私の予想では、参拝をしない確約はしないまでも、安倍首相が参拝しない意向、あるいは、行く予定はないことを伝えたのではないかと思う。

尖閣諸島については、東シナ海における緊張に関して互いに異なる見解を持っている、ということで一致したものの、日本側は、尖閣諸島について領有権の問題があるとは認めなかった。

――両者はこれで満足なのでしょうか。

現時点ではこれで十分と考えるべきだ。日中首脳会談ができただけでも進歩であり、そのおかげで、将来より踏み込んだ交渉をするための門扉を開いたといえる。

日本側はこれまでも再交渉を行う意思を示してきた。そのことは、中国側にとってかなりの動機付けになったはずだ。中国が開催したAPECにおいて、目に見えて日中の緊張があったら、不穏な雰囲気が漂ったことだろう。

そして中国側としては、昨年度にほぼ半分になってしまった日本からの直接投資を復活させたい。中国の経済が後退している今、日本からの投資が非常に重要だ。日中関係の緊張は、お互いにとってメリットとは言えなくなってきていたといえる。

海上での事故の危険性残る

ただ懸念点がある。日中の間には海があり、それは何ら変わっていないということだ。CSISは海上安全に注目した記事を載せている。アジア海洋透明性イニシアチブと日本の海上保安庁の資料によると、尖閣諸島付近の中国の動きは、元の状態に戻っているようだ。台風や嵐が来た1週間、中国船の行き来が減ったことに政治的な意味があるという解釈が広まったが、それは違っていた。

実際11月の中国人民解放軍の海軍行動は、今までより3~4割も尖閣諸島に近い所で行われている。したがって、中国からの圧力も、海上での事故の危険性も消えたわけではなく、ある意味で増えているといえるだろう。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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