運賃値上げ議論が本格化、「JR・私鉄」交錯する思惑 オフピーク定期券、届出制、有事への備え…

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さらに、京都丹後鉄道の運営会社をグループ会社に抱える高速バス大手のWILLER(ウィラー)もヒアリングに登場、実体験に基づく当局との交渉事例を発表した。「買い物定期のような利用促進定期券を提案したら、定期券は通勤、通学を対象とする制度であり、回数券で対応すべしと却下された」「夏休み期間の子供運賃を無料にしたいと提案したら、無料という運賃は存在しないという理由で却下された」という。「現行制度では創意工夫の余地がない。運賃制度にはマーケティング視点も必要だ」と訴えた。

このような各社の主張をまとめると、認可制から届出制への緩和、総括原価方式のコスト算出方法の見直し、収入激減や自然災害による巨額の復旧費用などの運賃への反映といったことになりそうだ。JR東日本が提案するオフピーク定期券も外せない議論の一つである。いずれにしても、現行の制度ではさまざまな不都合が生じていることが浮き彫りとなった。

どんな運賃制度が理想なのか

利用者サイドへのヒアリングも行われた。日本経済団体連合会はダイナミックプライシングなどの需要に応じた柔軟な運賃・料金制度の検討を要望。「満員電車での通勤対策はポストコロナの重要テーマであり、オフピーク運賃は労働者にも企業の福利厚生にもメリットがある」とした。

3月11日に開催された鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会第4回(筆者撮影)

これに対して、全国消費者団体連絡会はオプピーク運賃について「一定時間帯への集中を避ける試み自体は賛成する」としつつ、「通勤ラッシュ時と1時間違うだけで運賃が変わることでトラブルにならないか」「最も割安な定期券しか支給しない企業も少なくない。ピーク時間帯に出勤すると差額を自己負担するリスクがある」と懸念を示した。また、「透明性が高い制度である」として、運賃の上限認可制の維持を求めた。

全国消費生活相談員協会は「オフピーク運賃を利用できない人など多種多様な人の意見を聞くべきだ」とすると同時に、「自然災害への対策を運賃に含めるのは、自然条件が厳しい沿線の人が心配するのではないか」と疑問を呈した。

今後、これらのヒアリング内容を踏まえて委員の間で議論が行われ、6月下旬には方向性が打ち出される。委員長を務める山内弘隆・武蔵野大学経営学部特任教授は、ウィラーや消費者団体からの意見を聞いた後で、「運賃決定の考え方は費用に基づいて決める方法と価値に基づいて決める方法があるが、両者をミックスするような方法が今日みなさんから出た意見ではないか」と話した。これまでの鉄道運賃はわかりやすさ、透明性、公平性といった観点から費用に基づいて決められてきた。しかし、オフピーク、さらにはMaaSなど社会的効用の最大化という観点からは需要セグメントに応じた価値に基づく視点も必要ではないかということだ。

国は「わが国の鉄道への期待が高まっている」として、日本の鉄道システムの海外展開を進めている。この機会に海外から称賛されるような運賃システムが築き上げられることを期待したい。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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