ホンダの「遠隔操作・分身ロボット」は何が凄いか ASIMOから生まれたHondaアバターロボットのワザ

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要は「手」。Hondaアバターロボットでは、「多指ハンド技術」と「AI技術」を組み合わせることで、人の手と同じ能力、たとえば華奢なワイングラスや硬くて重い椅子を引いたり、ドライバーでネジを回すような細かなものを把持(しっかり持つ)して操作したりするなど、多彩な動きを実現する。

人の手は、ファスナーを開け閉めするような繊細な操作や、ペットボトルのキャップを開栓する力強い操作を難なくこなすが、既存のロボットハンド(人の手を模したロボット)は、缶のプルタブを開ける大まかな操作はできても、繊細な操作や力の必要なキャップの開栓は難しかった。 

Hondaアバターロボットの多指ハンド技術(4本指で構成)では、テーブルに平置きした小銭1枚をつまみ上げるような繊細な動き(指先の力にして10g前後)から、キャップの開栓のような力強い操作(同6kgf)まで、まさしく人の手と同じ操作ができる。また、15kgの鉄アレーの把持もすでに実現しているという。

通信待ちの時差の間も途切れなく行動

もうひとつの構成要素であるAI技術では、AIサポートによる遠隔操縦が核になる。たとえば、操縦する人とHondaアバターロボットの距離が大きく離れていると物理的な時差が発生する。

具体例として地球と月は約38万㎞離れているが、実用化されている通信技術を用いても、往復で2秒以上の時差(RTLT /Round Trip Light Time)が生じる(JAXA調べ)。

HondaアバターロボットでのAI技術は、こうした時差が発生する場面での活躍が期待されている。なぜなら、Hondaアバターロボット自身がその場で状況を判断し、通信待ちである時差の間も、次に必要な動作を考えて(AIで予測して)途切れなく行動し続けるからだ。つまり、ASIMO時代に培ってきた自律行動制御とAI技術を融合させることで、物理的に避けられなかった時差の穴埋めができる。

2021年度に登場したHondaアバターロボットは、2022年末までをメドに小型化し、2023年からは技術実証を行う。この段階では利用者への提供価値を検証しつつ、同時に人の手のようにさまざまな道具を操る要素技術を2025年末までに完成させる。そして2030年代までには実用化、そして普及を目指す。

2000年に誕生したASIMOは魂となり、未来に向けて次のステージを走り出した。

西村 直人 交通コメンテーター

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にしむら なおと / Naoto Nishimura

1972年1月東京都生まれ。WRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。(協)日本イラストレーション協会(JILLA)監事。★Facebook「交通コメンテーター西村直人の日々

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