(第39回)かつて世界を制覇した日本半導体産業の凋落

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 こうして、技術的にきわめて高度なものと、廉価品の大量生産という二つの分野に自動車が分離する可能性がある。そうなれば、自動車産業が半導体の二の舞になる可能性は、決して否定できない。

ソフトウエア産業に弱い日本

MPUではソフトの比重が高く、この分野は日本が得意でないと、上で述べた。これは、製造業の範囲内の問題だが、もう少し視野を広げてIT一般を見ると、ソフトウエア産業の比重の増加は、きわめて顕著だ。そして、この分野で日本は大きく立ち遅れた。

PCのOS(基本ソフト)に関して、マイクロソフトのウインドウズが標準的なものとして確立された。こうなると、それまでPCの「国民機」と呼ばれて日本市場を制覇したNECの9801のようなPCは、劣勢に立たされることになった。

インターネット面では、日本の立ち遅れはさらに顕著だ。この面では、シリコンバレーのベンチャー企業の活躍が目覚ましい。『Made in America』は、「サンフランシスコ地域のベンチャーキャピタルが成熟企業からの人材の離脱を促すので問題」と言ったのだが、まさにそれらの人材がIT革命を実現したのだ。

1990年にブラウザを提供するベンチャー企業ネットスケープが彗星のごとく登場し、ゴールドラッシュがカリフォルニアに再来したことを人々に実感させた。スタンフォード大学を中心とするシリコンバレーで、ベンチャー企業がITという新しい産業を立ち上げたのである。

他方日本では、マイクロソフト、ヤフー、グーグル、アマゾンのようにソフトウエアに特化した先端的企業は、結局のところ現われなかった。こうして日本は、ITにおいて決定的な遅れをとることになったのである。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2010年11月13日号 撮影:代 友尋)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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