中国のDXを侮る人がわかってない「日本との大差」 日本が岩盤規制と既得権にとらわれているうちに

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普通のスーパーでは販売されていない珍しい商品や、高価格帯の海外の食品、大きな水槽の中には生きたロブスターやカニなどのさまざまな魚貝類も売られています。

それぞれの商品には二次元バーコードがついており、スマホで読み込むと産地や流通履歴などのトレーサビリティ情報やお勧めの料理法など詳細な情報を確認でき、安心・納得して商品を選べます。

利用客はいけすを泳ぐ魚を網ですくったり、ロブスターを手でつかんだり、珍しい魚貝や果物の写真をスマホで撮るなど、いつ行っても店内は活気にあふれています。

こうして選んだ商品は、スマホから注文して、即時配送で自宅まで届けることも可能(30分が目安)。

さらにグローサラント(grocery[グロッサリー:食料雑貨・日用品]とrestaurant[レストラン]を組み合わせた言葉で、店舗内で販売している食材を調理してその場で提供する仕組み)として、選んだ魚貝類をその場で好きな味つけで料理してもらって食べる、という新しい顧客体験も提供しています。

「売り切る」技術も高い

実店舗の魅力とオンラインのメリットを組み合わせて、サービスと顧客の体験価値を飛躍的に高めることに成功しているのです。

このほか、フーマーでは需要と供給をマッチングさせて「売り切る技術」も高く、その自信がPB(プライベートブランド)商品にも表れています。

フーマーは生鮮品や牛乳などの日配品(デイリー食品)の多くでPBを展開していますが、それぞれのパッケージには曜日ごとに異なる数字と色が印刷されています。

フーマーが展開する日配・生鮮食品のPB商品(筆者撮影、2019年8月上海)

たとえば筆者が店舗を訪れた日は水曜日だったので、中国語で水曜日を示す「星期三」と「3」の文字が表示され、オレンジ色に統一されたパッケージが日配品と生鮮品に施されていました。

前日の火曜日の色や表示のPB商品は店頭に一切並んでおらず、閉店までに売り切る需要予測に応じたダイナミック・プライシングで、需給の調整を図っています。実際に閉店間際の同じ店を再訪したところ、見事にほぼすべての商品を売り切っていました。

『米中先進事例に学ぶ マーケティングDX』(すばる舎)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

ビッグデータとAI、さらにネットをいかに駆使していくか。顧客体験の刷新・魅力化をつねに考え、その変数を絶えず最適化し、売り場効率の限界に挑戦していくのがニューリテール・ビジネスの真骨頂です。

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、フーマーの店舗を見学した後に、同社で過去最大の買収案件となるアメリカのホールフーズマーケットの買収に踏み切ったとも言われます。ベゾスはフーマーに、オフラインには特有のアドバンテージがあり、オンラインとオフラインの融合(OMO)によって生じる化学反応にこそ、今後の売り場の効率革命を実現する可能性がある、と見たのではないでしょうか。

これらの事例でもわかるように、残念ながらことDXの分野では、日本企業は中国企業の後塵を拝しています。

厳しい現実を見つめ、虚心坦懐に米中企業にキャッチアップしていくための努力を傾けることが、いまこそ私たちに求められています。

宮下 雄治 経営学者、國學院大學経済学部教授

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みやした ゆうじ / Yuji Miyashita

専門はマーケティング、デジタル経済、中国経済。東京大学大学院総合文化研究科博士過程退学。2008年4月より城西国際大学経営情報学部助教、2013年より國學院大學経済学部准教授を経て、2017年より現職に至る。博士(経済学)。2017年から中国の国立中山大学(広東省広州市)の訪問教授として、中国のデジタル経済と消費社会を研究。中国での実地調査は約20年におよび、デジタル先進企業から小売業、飲食・サービス業、製造業まで幅広い業種・企業を取材。 フィンテックや人工知能(AI)などデジタル活用のビジネスやプラットフォーム企業の成長戦略に詳しい。

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