金の価格が1万ドル/オンスを超える日は来るか--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
もし正当化できるとすれば、それはドルの完全な崩壊が起こる場合である。財政赤字の増大と野放図な財政政策によって、人々は政府が紙幣を増刷するのではないかと疑い始めている。ドル崩壊が起こるのなら、金は最も信頼できるヘッジ用資産と言える。
一方で、インフレ連動債のほうが金よりもインフレに対する優れたヘッジ手段であるという主張がある。だが、金投資家は、政府がさらに厳しい状況に置かれた場合、インフレ連動債を本当に守る気があるかについて懸念を抱いている。ラインハート・メリーランド大学教授と私が過去の金融危機に関する共同研究で明らかにしたように、資金繰りに窮した政府はインフレ連動債を非インフレ連動債に強制的に転換させるかもしれない。そうなれば、インフレ連動債の価値は失われてしまう。事実、大恐慌のとき、アメリカ政府は債券のインフレ条項を実施しなかった。将来、そうした事態が起こらないとは限らない。
新興国と低金利が金価格を押し上げる
また金価格の長期的な上昇は、金の取引や投機を容易にする新しい金融商品の開発によって可能になったという見方もある。その説には一片の真実が含まれているかもしれない。中世の錬金術師たちはベースメタルを金に変える方法を模索したが、失敗に終わった。もし金融の錬金術で金塊の価値を劇的に増やすことができるのならば、それは逆説的ではないだろうか。
現在の金価格の上昇を説明する最も説得力のある理由は、アジアやラテンアメリカ、中東が世界経済の舞台に劇的に登場してきたということだ。新しい消費者の群れが購買力を高め、需要が増大し、稀少な一次産品の価格を押し上げている。
同時に、途上国の中央銀行は先進国の中央銀行に比べて外貨準備に占める金の比率が非常に低かったため、金準備を増やす必要があった。ユーロがドルに代わる外貨準備の対象として魅力に乏しかったことも、金に対する需要増につながった。