日本人の給料がアメリカに引き離され続ける理由 物価が上がっても賃金に反映されることはない

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日本の賃金は企業ごとに決められるので、「過度な賃上げをすれば企業自体がダメになる」という論理が受け入れられる。だから、労働組合としても、賃上げをそれほど強くは要求しない。

また、個々の労働者にとっては、賃金が上がらないことよりも、解雇されることのほうが恐ろしい。

以上を考えると、企業に雇われている人々の賃金が、「物価が上がったから」というだけの理由で上がることはないと思われる。

だから、輸入物価の高騰に伴って消費者物価が上がっても、それが賃金に反映されることはないだろう。その結果、実質賃金が下がる可能性が強い。

オイルショック時とは違う

「1970年代のオイルショック時には、原油価格の上昇で物価が上昇したのに対応して賃上げが行われた。それと同じことが今回も行われるのではないか」との意見があるかもしれない。

オイルショック時の1973~74年に賃金が大幅に引き上げられたのは事実だ。

しかし、この時には、従業員1人当たり付加価値が1973年に大幅に増えたことが、賃上げを可能にしたと考えられる(図表2参照)。

消費者物価上昇に先立って1人当たり付加価値と賃金が上がっているという意味で、現在の状況とは異なる。

また、1973年までも、毎年の賃金上昇率が10%を超える状況が続いていたことに注意が必要である。しかも、賃上げ率が物価上昇率より高かった(実質賃金が上昇していた)のである。

以上のように、オイルショック時と現在とでは状況がまったく異なる。

こうして、アメリカの高物価・高賃金、日本の低物価、低賃金という状況がさらに続くだろう。

本来であれば、為替レートが円高になることによってこの状況を調整するはずであるが、日本銀行が金融緩和を続けているために、それが生じない。したがって、日本とアメリカの格差がさらに拡大していくことになるだろう。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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