取材したある製造業では、5年後に工場を海外移転することに決定。現在は業績も順調ながら、国内工場で勤務している社員に対して早期退職の募集を検討中とのこと。一方で海外展開に伴うグローバル人材の新規採用は果敢に行う予定。このように業績不振に陥る前に戦略的に人材のリストラにも着手。その機会に終身雇用の考え方を改める企業が出てきたのです。
日本企業も長く厳しい時代を経験して、防衛本能を身に付けたのかもしれません。将来的に起きる問題を予測して、前もって人事的な施策に取り組む姿勢が出てきています。ある意味で頼もしいと思えますが、職場で働く社員にとっては厳しい時代の到来ともいえます。
売り手市場の中で、企業は「折衷案」を出す?
一方で、若手社員には終身雇用を望む傾向が高まっています。2013年版厚生労働白書では、労働政策研究・研修機構による若者のキャリア形成に関するアンケート調査の結果によると、20代の若者でひとつの企業に勤め続けたいと考える人の割合は50%を突破し、1999年の37%から大幅に増加。複数企業でキャリアを形成したいと考える人や独立自営したいという人の割合は低下しています。つまり、現代の若者は以前と比べて、1社での終身雇用をより強く望んでいるということです。
内閣府が行った「世界青年意識調査」の結果も興味深いものがあります。同調査では「職場に不満があれば転職するほうがよい」と考える人の割合が、日本は諸外国に比べて圧倒的に低く(米国は日本の2.5倍、フランスは2倍、韓国は1.8倍)、多少の不満があっても同じ会社に勤め続けることを望む傾向が鮮明になっています。要するに今の日本の若者は、転職を繰り返すことや、正社員にこだわらない形でのキャリア形成を基本的に望んでいないのです。
これを踏まえ、会社側はどうしたらいいのか? 戦略的にリストラも行い、終身雇用をやめて、人材の流動化のできる強い体質を目指す会社は、安定を望む多くの学生からすれば魅力的にみえない可能性があります。前向きな改革をしたい会社側にとっては、悩ましい問題ではないでしょうか。
それでは今後どうなるか。おそらく、日本企業は「折衷案」的な方向性を示していくことになるのでしょう。
終身雇用も可能なキャリアプランも準備するが、報酬はあまり増えない低位安定コース。別にリストラも辞さないが高報酬の可能性があるチャレンジコース。こうした2系統の伏線型人事制度を検討してはどうでしょうか?
ちなみにグループワーク製品で有名なサイボウズ社ではライフスタイルに合わせて働き方を選択できる「ライフ重視型」、「ワークライフバランス型」、「ワーク重視型」の3つの働き方があり、社員が年に1度選択できるしくみになっています。この仕組みを導入以後に退職率は劇的に下がったようです。
このような折衷案を実践した取り組みをする企業が出ている点は注目すべきでしょう。
ただ、折衷案的な人事戦略で、企業が生き残れるのか? 人材の流動化が進まないという問題点は放置され、さらに中小企業、ベンチャー企業の人材不足もより深刻化しないか。日本的雇用慣行からの脱却には、まだまだ時間がかかるかもしれません。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら