伝統工芸を売り出す際に、背景にあるストーリーを購入者に見せていくという流れは広がってきています。しかし、単純に作り手の職人さんの顔を見せるなど、ただの記号的価値で終わってしまっているものも多く見受けられます。
この藍染の産着のように、藍と愛をかけるという、一見、シンプルながら情緒的な感覚をくすぐるようなメッセージ性は、特に赤ちゃん・子ども用品のように人生の節目にギフトなどで贈られるようなものの場合、大事な商品の価値になります。そして、このような情緒的価値があるからこそ、職人さんたちのモノ作りストーリーもさらに引き立つものになります。
また、使う人の視点に立った商品開発が行われているものもあります。aeruのこぼしにくいコップシリーズでは、子どもと親、両方の視点が商品に生かされています。このコップは子どもがしっかり持てるように、段差が指にひっかかり、落としにくい形に作られています。それだけでなく、コップ同士を積み重ねることができるため、台所の収納に便利なスグレモノにもなっているのです。
また、子どものときに初めて使ったコップで、将来、初めてのお酒を飲む「ぐいのみ」にもなる。伝統工芸だから桐箱に入れてしまうのではなく、使ってもらえるモノを作る。徹底した“使い手目線”に立ったモノ作りが原点になっています。
補助金や後継者の問題
すでに多くの職人さんと共同作業でモノ作りを行っている矢島さんも、伝統産業におけるさまざまな問題を感じ、問題解決につながるようなアクションを意識していると言います。
「伝統産業の世界に実際に入ってみて、やはりいろいろと問題はあると感じています。たとえば、補助金の問題。特にここ数年は伝統産業が再び注目され始め、地場産業だということで補助金が増えています。それ自体は悪いことではないのですが、職人さんも人間です。自動的におカネが入り続けると、ついつい補助金ありきの考えになってしまう方もいます。補助金に頼り続けるのではなく、自立していくことがとても重要だと感じています。私たちは、次世代の子どもたちのことを真剣に考え、『“本”当に子どもたちに贈りたい日本の“物”=ホンモノ』を作っていきたいと言ってくださる方と、一緒にモノ作りをしています」
これについては、前回の記事でも同様のことに触れました。補助金を受け続け、それが目的化されてしまうと、お客様を見る努力をしなくなってしまい、最も必要とされている使い手目線から離れてしまう原因となってしまうのです。
伝統工芸を将来につなげていくためには、残すべき価値のあるものを、どの評価軸で適正に評価していくのかを決める必要があります。それがなければ、補助金ノウハウを持った人たちに補助金が集中するという結果を招く可能性があるのです。
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