26歳、女性経営者が魂を吹き込む伝統産業 「使い手目線」が改革の武器

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また、多くの場所で言われているように、伝統工芸の後継者問題についても、矢島さんはこう言います。

「後継者問題はこの数年間でさらに深刻化しています。職人さんを育てるには約10年はかかると言われていますが、伝統産業品そのものの需要が減っていることもあって、若い職人さんを育てる時間や、技術を向上させるために若い職人さんに失敗させる余裕がなくなってきています。それだけでなく、職人さんが使う道具や原材料を作る会社も廃業が相次ぎ、モノ作りの継続性が危ぶまれているのです。

そういった課題には、経営的なアプローチが必要ですが、モノ作りができ、かつ経営ができるというスーパーマン的な職人さんはとても限られています。だから、モノ作りを職人さんにお願いしながら、後継者問題などの経営的課題は一緒に取り組んでいきたいと考えています」

矢島さんが今年7月に出版した著書『和える –aeru- 伝統産業を子どもにつなぐ25歳女性起業家』。和えるに懸ける矢島さんの思いがつづられている

矢島さんは、職人さんからコスト構造を教わりながら、納入価格を一緒に考えることもあると言います。モノ作り業界では、最終売値から納入価格を決めることが多く、これが川上の素材業者も含めて作り手を苦しめる場合があります。

それに対して、矢島さんのように納入価格を作り手と買い手が一緒に計算するというのは一般的ではありません。しかし、これができるのも、ビジネスの関係性を超えて、よいモノを残していきたいという思いを職人さんと共有できているからこそでしょう。

「すべての伝統産業を持続可能なものにできるとは思っていません。自然の摂理に逆らえず、なくなっていくものもあるでしょう。でも子どもたちに、ひとつでもいいので、その国の文化や伝統に触れてもらい、次世代につないでいってほしい。そのために伝統産業ができるモノ作りはあると思います」

「欲しい伝統工芸品を作る」ためには、間違いなく使い手目線や女性目線が必要ですが、最も重要なのは、その価値を誰かに届けたいという思いです。その思いこそが、伝統工芸に魂を吹き込みます。矢島さんと和えるが今後、伝統産業にどのようなインパクトをもたらすのか、注目していきたいと思います。

 

【お知らせ】
マザーハウスでは本連載のテーマに合わせてマザーハウスカレッジという、みなさんで議論する場を設けています。次回は11月26日(水)に老舗旅館「元湯陣屋」代表取締役社長の宮崎富夫氏をお呼びして、「老舗旅館を復活させたWarm HeartとCool Head」というテーマで行います。詳しくはこちらをご参照ください。

 

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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