ヤフー併呑!ついに牙むく巨人マイクロソフト 広告収入増へ向けた戦い

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このまま放置すれば、マイクロソフトの利益の源泉がグーグルに奪われていくばかり。であれば、ヤフーとの統合でグーグルとの2強体制に持ち込み、ジワリとその差を詰めていくという今回の戦略は理にかなっている。

 一方、狙われたほうのヤフーは失策が続いていた。

「何もかも、すべてに投資していて核となる事業がない。まるで、パンにピーナツバターを薄く、万遍なく塗っているかのようだ」。業績低迷が続く中、06年11月には幹部が経営陣を批判するメモが流出。そして、06年12月期はついに営業減益に陥ってしまう。

業績テコ入れを狙い、同年12月には広告事業を主軸とする機構改革を発表し、07年2月には新検索連動型広告システム「パナマ」を投入した。ところが、業績は上向かず経営幹部が相次ぎ引責辞任。ついに同年6月には長く同社を引っ張ってきたテリー・セメルCEOも辞任。創業者のジェリー・ヤン氏がCEOに就任した。

ヤン氏の本格復帰後、思い切った経営改革を期待する向きもあったが、軌道修正は図れず、07年12月期決算は2期連続の営業減益。併せて全従業員の約7%に当たる1000人のリストラを発表したが、08年度も営業減益に歯止めがかからない見通しだ。状況は厳しさを増す一方だった。

実は06年末にもマイクロソフトに買収を持ちかけられていたが、ヤフーが「パナマ」を投入すれば自力で業績を回復できると拒否していた。今回は1年前より置かれた状況がより深刻だ。検索業界に詳しいサーチエンジンランド・ドット・コムのクリス・シャーマン氏は「財務的には問題はないが、グーグルと比べるとその差は明らか。今後、検索や検索連動型広告をどの程度強化できるかがカギ」と見る。だが、検索シェアは縮小し続けており、このままでは存在感は薄くなるばかり。マイクロソフトの提案を無下に断れば、ヤフーの株主から株主代表訴訟を受けるリスクもある。

カギを握るのは、グーグルの動きだ。今回の発表直後、「マイクロソフトとヤフーが統合すると、メールやインスタントメッセージのシェアで圧倒的になる。これで健全な市場競争が行われるのかどうか、世界の政策決定者は自問すべきだ」と強く牽制した。ヤフーに対し、何らかの支援を行っていく姿勢も見せている。対抗M&Aを行うことは考えにくいが、グーグルはさまざまな方法で横ヤリを入れてくるはず。買収劇は長期化しそうだ。(週刊東洋経済:山田俊浩、倉沢美左)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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