日本の自動車メーカーの収益は回復途上《ムーディーズの業界分析》

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米国市場と中国市場におけるパフォーマンス

ムーディーズは、ベースシナリオにおいて、中国と米国が牽引役となり、世界市場全体が7%、米国市場が17%、中国市場が10%成長すると予想している。また日本のメーカーがその恩恵を受け、米国での市場シェアを維持していくと考えている。それはクレジット上、ポジティブであると評価している。

ムーディーズは、米国市場は11年に前年比で17%成長すると予測している。米国市場では、激しい競争とさまざまな課題が日本の自動車メーカーを取り巻いている。再生を遂げつつある米国メーカーや韓国メーカーとの競争が激化する一方、需要が直近のピークである07年の水準を大きく下回っている。

また、日本の自動車メーカーと競合他社との品質の差は、特に09年後半から10年初めにかけてトヨタが約800万台を自主改修・リコールした問題が大きく報道されたことも一因となり、縮まりつつあるようだ。しかし、ムーディーズは日本メーカーがこうした問題に対応し、11年も足元の市場シェアを維持することが可能であると考えている。

日本メーカーは保守的な事業戦略をとっているため、他の主要市場に比べると成長市場の中国では後塵を拝している。とはいえ、いまや中国は世界最大の市場であり、成長性も高いため、日本メーカーの収益の主要な牽引役となるのに時間はかからないだろう。地理的分散性が高まるという意味で、これは信用力にとってポジティブである。

為替レート

日本の自動車メーカーの収益と競争力にとっては、為替が引き続き大きなリスク要因となっている。長期的な円高の趨勢により、日本メーカーは海外生産比率を高めてきた。たとえば、過去10年間で、トヨタ自動車の海外生産比率は30%から51%に上昇し、日産の場合は50%から67%に上昇した。こうした努力にもかかわらず、各社の業績は依然として為替変動の影響を受けやすい構造になっている。今後も引き続き海外生産比率を高めていくと思われるが、そのプロセスはゆっくりとしたものであろうし、実行に当たってはリスクを伴うものである。

最近の急速で大幅な円高は、為替ヘッジしている影響や円高効果の通年化などにより、11年3月期の業績だけでなく、12年3月期の業績にもマイナスの影響及ぼす可能性がある。円が対ドルで80円に近づいた水準が長期間続いたり、戦後の最高値を超えて円高が進んでいったりした場合には、日本の自動車メーカーの収益性の回復に大きく水を差すことになり、クレジット上はネガティブと評価されるだろう。

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