被災住民に届かぬ3兆円の恩恵

滞留する復興資金

石巻の復興は一つの市をゼロから作り上げるに等しい大事業だ。東北地方で公営住宅の建設を行っている建設会社、鴻池組の鴻池一季・名誉会長は「近代日本において、これほどの規模のプロジェクトはかつてなかった」と指摘。「建設業界は全体で、震災前の数倍もの仕事を抱えている。人手や機材が足りないもの当然のことだ」と語る。 

地元の建設会社、遠藤工業の営業担当者によると、震災前の石巻市には、5階よりも高い鉄筋コンクリートの建物は5棟しかなかった。「いま市内では(こうしたビルが)およそ20棟が建設されている。戦後50年かかった建設工事を、3年で行うようなものだ」とその担当者は言う。

建設計画はさらに遅れが予想され、復興資金の滞留が一気に解消されるめどは立っていない。岩手銀行企画部の勝部隆太郎氏は「政府の定める集中復興期間中に復興事業が完了しないのは確実視されている」と語る。

第一生命経済研究所の嶌峰義清・首席エコノミストも、期間を5年としている政府の復興計画について、非現実的な前提に基づいている、と指摘。「人手不足や建材費上昇、移転する住民間の合意形成の難しさといった問題を踏まえると、予算は5年では使い切れない」と悲観的だ。

その一方で、地方自治体に交付された復興資金の多くが預金されている東北最大の地銀、七十七銀行では、過去3年間に公金預金が4倍に増加、現時点で1兆8000億円に膨れ上がっている。

同行の小野寺芳一総合企画部長は「預金が集まることは悪いことではない」としながらも、「資金流出時期のタイミングが読みずらい」と運用の難しさを認める。結局、短期国債が運用先になり、その結果、同行の国債保有残高は2011年当時に比べて2.5倍の2兆円規模に膨れ上がった。

七十七銀行と同様、自治体からの資金を預かっている他の銀行も国債に投資する例が少なくない。震災後、政府は14兆円規模の復興債を発行した。復興資金を預かる銀行がその資金で国債を購入し、政府の資金調達を助けるという「被災者不在」の資金循環が続いている。

「私たちは捨てられ、忘れ去られたのか」

石巻の阿部さんにとって、仮設住宅での冬越えは今回が最後になるかもしれない。春になれば、新しい公営住宅ができる可能性があるからだ。しかし、その建設予定地は9月中旬の豪雨に見舞われ、6人の作業員が水を掻き出す作業に追われた。何件かの家の基礎は出来上がったものの、建設作業が進んでいる兆しはほとんどみられない。土や砂利の山の横で数台のクレーンやトラックが待機状態にある。

避難住民の集会所で数人の女性がテーブルを囲み、自分たちの窮状を訴えた。仮説住宅に3年間暮らす66歳の女性は「私たちは捨てられ、忘れ去られたように感じる。永久にここで暮らせると思われているのだろうか」と言う。67歳になる別の女性は「アパートを支給されたけどそれだけ。それも今ではがらがらだ」と不満を口にした。

石巻市の亀山市長にとって、消えない心配の種は避難住民のメンタルヘルスだ。「多くの人が沈みがちになっていることが心配」と同市長は話す。「健康を損ない、新しい場所に移る意思を失くしてしまえば、大きな問題だ」。

 

 

(浦中大我 Antoni Slodkowski 編集:北松克郎、加藤京子、吉川彩)

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