高齢者は若年者の職を本当に奪っているのか?
ただ、高齢者と若年者雇用との関係については、むしろ逆の指摘もある。そこで多く取り上げられるのが、欧州の事例だ。1970年代、石油危機後の高い失業率に悩まされた欧州各国は、高齢者に早期引退を促すことで、若年層の雇用拡大を狙った。具体的には、老齢年金の早期給付や失業保険の長期給付などによって、高齢者の早期引退を促進。その結果、特にフランスやドイツなど大陸諸国では、高齢労働者の早期引退は“文化”といわれるほどに定着した。
それでも欧州の若年層の失業率は改善しなかった。高齢者が引退しても、熟練度に劣る若年者にはそのポストは回ってこなかったのだ。「欧州の早期引退制度は明らかに失敗だった」(労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員)。また社会保障財政が急速に悪化したことで、欧州各国は政策を方向転換。01年には逆に、EUとして高齢者(55~64歳)の就業率を50%(当時38・8%)へ高める目標が設定された。
「ペア就労」で高齢者と若者の融合を実現
リクルートワークス研究所の大久保幸夫所長は「若年層を対象にした求人は決して少なくない」と指摘する。実際、来春卒業予定の新卒に対する求人倍率は1・28倍(リクルートワークス研究所調べ)。問題は、大企業や公務員など安定志向の強い若者と、人手不足に悩む中小企業との間のミスマッチにある。政府の緊急対策でも、中小企業における集中的なマッチングが最大の狙いになっている。「新卒者雇用には、大学における職業訓練など別の構造問題がある」(大久保所長)。
すでに日本における55~64歳の就業率は65・5%と高い。それでも高齢者の雇用拡大は社会的な要請といえる。人口減・少子高齢化に直面する日本では今後、労働力人口(15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業を合わせたもの)が加速度的に減少していくからだ(下グラフ参照)。「女性や高齢者の活用を積極的に進めなければ、現在の経済規模を維持できない」(権丈英子亜細亜大学准教授)。その中で企業にとっても、高齢者と若者の「共存」モデルは不可欠な取り組みとなる。