レアアース問題の急所、白熱する日中「ハイテク磁石」戦争

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ネオジム磁石は、1984年に住友特殊金属(当時、日立金属が04年に買収、07年吸収合併)の研究者が開発。実際に作っているのは、基本特許を有する日立金属と信越化学工業、TDKなど。国内生産量はおよそ1万トンで、省エネ家電や自動車などを中心にさらなる需要拡大が見込まれている。

 実は、中国企業も日立金属からライセンス供与を得てネオジム磁石を生産し、生産量ではすでに日本を大きく上回る。ただし、性能の安定性など品質面では日本企業と差があり、その用途も電動自転車やおもちゃ、スピーカーなどが中心だ。

ネオジム磁石は重量の3割以上がレアアースでできている。中国政府としては、その輸出規制をちらつかせることで日本のハイテク磁石の製造技術を自国内に取り込み、次世代エコカーやIT関連機器、省エネ家電などの国際競争力につなげたい。

一方、日本の磁石メーカーは技術流出を恐れ、現時点では生産移転には慎重だ。このため、原材料となるレアアースの供給を武器に、中国側がさらにプレッシャーを強めてくることが予想される。

自動車メーカーにとっても、このネオジム磁石は極めて重要だ。電子化が進んだ現在の自動車は、1台で数十から100個前後のモーターを搭載。その大半はコストの安い従来型のフェライト磁石だが、電動パワステなど高出力(パワー)が必要な一部モーターにはネオジム磁石が使用されている。

これがHVやEVになると、駆動用モーターや発電機などにも使用対象が広がる。強力なパワーが要求される駆動用モーターなどを小型軽量で作るには、磁力の強いネオジム磁石が欠かせない。車を動かす駆動用モーターは電池と並ぶ次世代エコカーの心臓部で、ネオジム磁石はその性能をも左右するキーパーツと言える。

トヨタは、豊田通商を通じてベトナムなどでレアアースの開発を計画するほか、ディスプロシウムを使わないボンド磁石をグループの愛知製鋼に開発させている。ディスプロシウムはレアアースのなかでも特に中国への偏在性が高い。こうした一連の取り組みを、トヨタグループのある企業幹部は「トヨタと中国の磁石戦争」とさえ表現する。

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