ウクライナ危機が日本の資材調達に与える大混迷 もっと深刻なのは「脱炭素が虚像」という違和感だ

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サプライチェーンでは、安定した品質、価格、納期で必要部材や原料を入手することが求められる。1つの国に依存するのがもっとも簡単だ。しかし、ロシアに依存したらどうなるだろう。それはEU各国とおなじ結末をたどるかもしれない。エネルギーを1国に依存していたら言いたいことも言えなくなる。なによりもリスクヘッジとしては不備がある。

結論は凡庸だが、結局は調達先の分散化しかない。

実際に、中国から端を発した新型コロナウイルス、ウクライナ問題ともに、各社のサプライチェーンに分散化の意識を植え付けた。そう、どんなに凡庸であっても、結局は生き残るためには、「ここがダメなら、ここに切り替える」「ここもダメなら、違うあそこに切り替える」という選択肢を増やすしかない。

サプライチェーン関係者の懸念

ただ、もっと深刻なのはサプライチェーン関係者の違和感だ。何の違和感かといえば、結局のところ脱炭素は虚像ではないかというものだ。EUはさかんに脱炭素を叫んだ。しかし、結局は、すべてを自然再生エネルギーでまかない切れず、ロシアの天然ガスに頼った。さらには天然ガスを脱炭素社会においても重要で不可欠なエネルギー源として認めるにいたった。

こうなればロシアを批判できるはずはない。事実、EUはロシアのウクライナ侵攻に及び腰でポーズ上の批判は繰り返したものの、真正面の衝突は避けた。メディアや視聴者も「なんだかなあ」と思ったに違いない。ただし、それ以上に利潤を追求する企業の失望は大きかった。おそらく脱炭素やSDGsを進めようとする社会に悪しき影響を与えるだろう。

さらに、漁夫の利を得たロシアに対抗するためにアメリカはシェールガスやシェールオイルを大増産しようともしない。そうすれば市況価格の下落を導けるだろう。しかし、これまで脱炭素や脱化石燃料を主張していたアメリカ政権からすれば無理ゲーであるに違いない。

「結局は、脱炭素なんて絵に描いた餅だったわけね。そうじゃなけりゃロシアをあれだけ野放図に許すはずないもんね」とはサプライチェーン関係者の本音だろう。

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サプライチェーンとは、国家の戦略を下敷きにして、最善の仕組みを構築する。現在では、国家の戦略がないまま企業に丸投げされている。ロシアのウクライナ侵攻を、「ロシアの終わりの始まり」と評する指揮者も多い。しかし、各企業からしてみれば、民主主義国家であっても他国なら、結局は何もしないのだなという感想が残ったに違いない。私には企業が国家を信頼できなくなる始まりのように思えてならないのだ。

少なくとも。冒頭であげた、抑圧された人たちの涙を各民主主義国家はどのように救うのだろうか。

坂口 孝則 未来調達研究所

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さかぐち・たかのり / Takanori Sakaguchi

大阪大学経済学部卒。電機メーカーや自動車メーカーで調達・購買業務に従事。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。製品原価・コスト分野の分析が専門。著書も多数。

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