アメリカのインフレ率が鈍化するこれだけの証拠 日本株が再度上昇するには何が必要なのか
約40年ぶりの高インフレをよそに予想インフレ率を示す指標は、意外にも、安定ないしは緩やかな上昇に留まっている。これが意味するところは「高インフレは一時的」であると人々が判断していることに他ならない。インフレのコントロールにあたってFRBが重視する5年先5年予想インフレ率(債券市場参加者の中長期的なインフレ予想を反映する)は2%を小幅に上回る水準で安定推移しており、やがて消費者段階の物価が2%程度に回帰するとの予想が反映されている。
また消費者の予想インフレ率調査でもおおむね同様のことが言える。ミシガン大学消費者信頼感調査の質問項目である5年先予想インフレ率は、ここへ来てじりじり上昇しているとはいえ、パンデミック(新型コロナウイルスの大流行)発生前の水準を小幅に上回るにすぎず、パニック的な様子は感じられない。
ガソリン価格の急騰を映じて1年先の予想インフレ率が跳ね上がっているのとはかなりの温度差がある。こうした構図はNY連銀が実施した調査にも共通する。NY連銀調査ベースでは3年先の予想インフレ率の低下が顕著になっており、消費者が「インフレは最悪期脱出」と考えているようにみえる。
企業段階のインフレにもピークアウトの兆候
そして企業段階のインフレもピークアウトの兆候が認められている。企業段階の物価(PPI)は高止まりしているものの、中小企業の価格設定スタンスを示す指標は徐々に低下方向に傾いている。
物価の基調を示すコア粘着CPI(アトランタ連銀公表、変動の鈍い品目に絞って算出した消費者物価)に一定の先行性を有してきたNFIB(全米自営業者連盟)中小企業調査の「価格計画DI」は、直近2カ月連続で低下し、消費者物価が年央にピークアウトする可能性を示唆した。エネルギー価格の上昇が継続している反面、サプライチェーン問題の緩和などを背景に値上げの波が一服したことを映し出したようにみえる。
今後、インフレ率鈍化の兆候を示す指標が多くなると、FRBは労働市場のさらなる回復を「待つ」余裕が生まれるだろう。現在FRBの総論として、労働市場は完全回復の一歩手前にあるとの認識だが、そうした楽観的な見解にクギをさすかのようにサンフランシスコ連銀は7日に「アメリカの経済は現在、完全雇用に達していない」といった趣旨のペーパーを発表した。
当該ペーパーで示されたのは、労働参加率と就業率がパンデミック発生前のトレンドを大幅に下回ったままであるとの問題意識だ。失業率がパンデミック発生前の水準に比肩しているのに対し、労働市場から退出した人は多く、雇用者数の水準が元に戻っていないことを取り上げ、それらが本来のトレンド値に達するのは2024年になると結論付けている。失業率の低下は労働市場の回復を誇張しているため、それをもって金融引き締めをすべきでないとの含意があるのではないか。
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