トランプ支持の陰謀論者になった47歳女性の衝撃 彼女にとって元大統領は悪魔崇拝者と闘う英雄

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スパルディングの場合、入り口は高騰した保険料だったが、そのきっかけは信者の数だけある。

米公共宗教研究所が2021年にまとめた調査結果によると、ネット上で2017年後半に始まったQアノンを強く信奉する人たちは、共和党や右派メディアの支持者に際だって多く、全米に3000万人以上いることが分かっている。

「政界やメディア、金融界のエリートが、児童の性的な人身売買を行う悪魔崇拝者に操られている」など、Qアノンの基本的な陰謀論に同意する信奉者がアメリカ全体の14%に達した。彼らは同時に、トランプを悪魔崇拝者と闘う英雄として位置付ける。

子どもの生き血をすするなんて、日本人にはウソのように聞こえる陰謀論だが、アメリカにはそれを受け入れる土壌がある。

悪魔的な人びとが秘密裏に会合を開き、子どもを虐待しているという間違った話の起源は中世ヨーロッパにまでさかのぼる。“血の中傷”と呼ばれる誤った民間伝承によると、ユダヤ教徒が秘密の会合を開き、キリスト教徒の子どもの血液を儀式に使っている、というもの。この主題をモチーフにして描かれた絵画も少なくない(PBS “United States of Conspiracy” 2020年7月28日放送)。

そうした民間伝承が、形を変えて今日によみがえったのがQアノンだ。

「不正選挙が行われたことは100%間違いない」

しかし、飛行機で隣り合わせたQアノン信者は、拍子抜けするほどアメリカのどこにでもいるような中流家庭の主婦だった。彼女がワシントンDCに行って心を痛めるのは、そのホームレスの多さだ、と言う。

「彼らに会ったら、少額でも直接お金を渡すようにしているの。支援施設に献金するより、直接渡す方が、彼らも急場をしのげるでしょう」とスパルディング。

だが、彼女もまた、アメリカでは児童売買が行われており、トランプがその悪魔的な存在と闘っているのだ、と言う。さらに大統領選挙は盗まれた、とも信じている。

「サブウェイの宣伝に出て有名人になった男(ジャレッド・フォーグルを指す)がその後、小児性愛者として逮捕され、実刑判決を受けたのは有名な話よね。デニス・ハスタート(元下院議員)だって、コーチを務めていた高校のレスリング部の男子生徒たちに性的虐待の口止め料を払って、実刑判決を受けているわ。彼らも悪魔集団の一員なのよ。まだ、その全貌は容易に現れないけれど、そうした邪悪な集団がこの国にはあるの。そうした集団と1人で闘うのがトランプ大統領なのよ」

――2020年の大統領選挙(※ジョー・バイデンが当選)で不正な操作が行われたと信じていますか?

「もちろんよ。私自身が、選挙当夜、デトロイトの集計所に行って、壁に板が張られ、内部を見えなくするのを見たわ。不正選挙が行われたことは100%間違いないわ」

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そこまで言うと、彼女が、「大統領選挙に勝ったのはトランプでしょう!!」と、ほかの乗客に声をかけた。

すると「その通りだ」と言ういくつもの歓声とともに、トランプの帽子や旗などが振られた。乗客の半分以上が、トランプの集会に向かっていたのが分かった。

飛行機だけじゃない。数万人というトランプ信者がアメリカ中から、バスを仕立てたり、電車を乗り継いだりして、翌日のワシントンDCでの集会に馳せ参じた。

2021年1月6日は、連邦議事堂で、各州が集計した選挙人を合計し、ジョー・バイデンが大統領選挙に勝利したことを認定する日だったため、トランプ信者たちは、どうしてもそれを阻止しなければならなかった。

横田 増生 ジャーナリスト

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よこた・ますお / Masuo Yokota

1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズムスクールで修士号を取得。1993年に帰国後、物流業界紙「輸送経済」の記者、編集長を務める。1999年よりフリーランスとして活躍。2017年、『週刊文春』に連載された「ユニクロ潜入一年」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞(後に単行本化)。近著に『「トランプ信者」潜入一年』。

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