安倍政権を再検証「画期的だった若者重視」の裏側 小泉純一郎は浮動層の人気をつかむ目標を達成
とはいえ、安倍は、組織票を手堅くまとめるだけで政権を長期持続できるとは考えなかった。
「自民党の組織をいくら固めても、もう業界団体というのは世界が変わっていますから。自民党が固めている業界団体の人口比は小さくなっていて、例えばIT系なんかは全然組織されていないわけです。情報系もそうですが。それはそうとう減ってきていますから、そこに頼っていてもだめなんですね」と安倍は述べており、組織票が構造的に細っている状況を冷静に捉えていたことがわかる。
そこでやはり、浮動的な有権者にアプローチすることが必要になるわけであるが、安倍が強調したところによると、アピールのターゲットはとくに若年層に置いたという。官邸コアメンバーの1人(内閣官房副長官)であった世耕弘成も、「若い人の支持をしっかりキープしていくことが重要」と政権全体で意識していたと証言している。世耕は、小泉政権期から、自民党のコミュニケーション戦略の立案・実施を中心的に担ってきた人物である。
画期的だった「若者重視戦略」
この「若者重視戦略」は、自民党の歴史の中で画期的なものだったと言っていい。小泉政権も浮動層をターゲットとした戦略を採ったが、公共事業費削減政策に象徴されるように、(農村住民に対する)都市住民重視を主眼としていた。都市部無党派層の中に若者は多く含まれるのであるが、小泉政権は明示的にこの「年齢層」を狙ってアピールしていたのではないと見られる。
いずれにしても、ポスト小泉期には、(プレ小泉期と同じく)自民党は明確に「老人向け」の政党であった。2009年衆院選直前(2009年8月)の毎日新聞社の政党支持率調査によると、自民党支持率は60代以上の高齢層においてのみ高かった。この老人向け政党という自民党の特徴は、2012年衆院選直前(2012年11月)においても変わっていなかった。
にもかかわらず、第2次安倍政権は、不得意分野であるはずの若年層からの支持調達を重視したというのである。かつて中曾根康弘は、1986年衆参同日選に大勝し、従来の自民党支持層より左派的な有権者の票を得た現象を、「左にウイングを伸ばした」と表現した。これに倣えば、安倍自民党は、いわば「下」にウイングを伸ばそうとの方針を採ったわけである。