「論理的な上司」の話が部下に響かない納得理由 部下との信頼関係を深めるカギは「聞く力」

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お伝えしたように、感情を司るのは「価値観」ですから、「相手が大切にしていることは何だろうか?」と相手の価値観を理解しようという姿勢がとても大事です。相手を深く理解すればするほど、相手とのラポール(信頼関係)は深まります。

以前、「職場で部下にロジカルに説明してもなかなか言うことを聞いてくれない」と嘆いていた管理職のクライアントさんがいました。そこで私は「部下に本当はどうしたいのか?」をとことん傾聴してみるようお伝えし、その方に実際に試してもらったのです。

約1カ月後、その方から報告がありました。「部下のことを何も理解できていなかったことを反省しました。部下は自分の考えや思いを聞いてもらったことがとても嬉しかったようです。その後、私の説明にも耳をよく傾けてくれ、進んで行動してくれるようになりました」。ラポールが深まれば相手は心を開いて、こちらの話も受け入れてくれるようになるのです。

心の扉は「内側」からしか開かない

「心の扉は内側からしか開かない」。著名な臨床心理学者カール・ロジャーズの言葉です。外からロジカルに理解させようとしても、感情が邪魔をして受け入れてくれません。真のコミュニケーションというのは、外側からではなく、内側から働きかけることによって成り立つのです。

部下へのフィードバックにおいても、この原理は同じです。たとえば、目標値に達していない理由が、明らかに行動量の不足である場合、「行動量が足りてないので、もっと行動量をあげる必要がありますね」とロジカルにフィードバックしても、部下に反発される場合があります。

他方、心の内側に向けてフィードバックするとこのような言い方もできます。

「行動量を上げられるとしたら、どのような工夫ができますか?」あるいは「もし何か困っていることなどがあれば、教えてくれませんか?」。

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部下は目標を達成できなかったことに「恥ずかしい」、「情けない」、「つらい」など何らかの感情を抱いています。部下の感情に寄り添いながらフィードバックすることで、部下の心の扉は開いていきます。

その結果、そのフィードバックは深く部下の心に届くのです。ビジネスの世界でロジックが重要な役割を果たすことは言うまでもありません。他方、お伝えしたようにロジックだけでコミュニケーションは成り立たないのも事実です。

「議論に勝って、勝負に負ける」では、相手との関係性を壊す可能性があります。関係性を壊してしまっては、ビジネスそのものができなくなります。

ロジックは大事です。ですが、感情を理解するということは、もっと大事なビジネススキルです。「人間は感情のいきものである」という原理を理解することが大切なのです。

國武 大紀 エグゼクティブコーチ/組織変革コンサルタント
くにたけ だいき / Daiki Kunitake

Link of Generation 代表取締役。1972年生まれ。滋賀県出身。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。その後、JICA(国際協力機構)に就職。以後16年間にわたり、発展途上国の国際協力に従事。LSEに留学し、組織心理学の修士号を取得。名古屋大学大学院(国際開発研究科)客員准教授として指導。その後、外交官(OECD日本政府代表部一等書記官)となる。現在は、エグゼクティブコーチング、自己実現コーチングなどを行うほか、リーダーシップ開発や組織変革を専門とするコンサルタントとしても活躍している。著書に 『聞く力こそが最強の武器である』、 『聞く力こそがリーダーの武器である』(いずれもフォレスト出版)などがある。

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