テレ朝「ローカル局再編」の規制緩和を求めた真意 費用軽減でネットワーク維持狙うも課題は山積

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このように一定の経費削減効果が見込める地方局合併。ただ、困難な地方局の経営が劇的に改善されるわけではなさそうだ。

テレビ朝日HDの藤ノ木取締役は同一放送を複数地域で放送した場合、「地元スポンサーへの影響は一定ある」とみている。単一地域でしか事業を行っていない地場企業が、広告単価の前提が複数地域での放送に変わってもなお、テレビ広告を出稿し続けるかは不透明なのだ。

ナショナルクライアント(自動車や化粧品、日用品などの大手ブランド)からの出稿においても、仮に放送地域が3県になった際、今までの3県分を足し合わせた広告単価を維持できる保証はない。収入への悪影響に対する懸念がくすぶるうちは、近隣県のテレビ局が経営難に陥った際など、再編の実現に向けたシナリオは限定的とみられる。

地元のニュースが埋もれる懸念も

また、県域制度を見直すうえでは、「地域情報」をどのように維持するかも問題となる。提案された県域制廃止では「(各県の)取材拠点は維持される」(テレビ朝日HD・藤ノ木取締役)前提のため、各県によって異なる地域情報を届けられるとする。

しかし、仮に複数県の地方局が合併すれば、例えば夕方のニュース番組が1つになるなど、各地方局が独自制作していた放送枠の合計は必然的に減少する。そのため、取材拠点を維持したとしても、現状より地域情報の量が減ってしまう可能性は高い。地方局は自主的に自社制作比率を向上させ、地域情報を強化しなくてはならない。

テレビ視聴の減少という根本的な減収要因に向き合いつつ、地域情報の維持も求められる地方局再編。合併など今までになかった選択肢が登場する可能性もある中、どのように生き残りを図るのか。戦後以降、変わることのなかった県域規制が緩和されたとしても、先行きが明るいとは言えない。

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井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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