(第33回)国際競争力がない日本のサービス産業

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 ところが、日本の工学部の専門は、鉄鋼業、電機産業、機械産業、造船業など、製造業に対応したものになっている。コンピュータサイエンス学科は、いまに至るまで主要な大学には存在しない。また、ビジネススクールやロースクールなど、高度専門家教育を担う大学院レベルの教育機関は、存在しないか、極めて弱かった。最近急ごしらえで形だけは整備されたが、教育内容がともなっているかどうかは、大いに疑問である。金融業や先端業務サービスで日本が弱いのは、そうした業務を支える専門的人材が弱いからである。つまり、日本の高等教育体制は、製造業のための人材を育成することを主眼としており、サービス産業をほとんど無視している。

第三に、社会的価値観の問題がある。日本では、もの作りに直接結びつかない経済活動を、「非生産的で無駄なもの」「地に足がつかない虚業」と考える傾向がある。せいぜい、もの作りに付随するものとしてしか評価しない。しかし、国際分業の比較優位原則を考えれば、ルーチンワークの比重が高い製造業は新興国にまかせ、人材の能力を発揮できる分野に集中することが必要なのだ。

このような障害を克服できるかどうかが、日本経済の将来にとって重要な意味を持つ。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2010年10月2日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。 写真はイメージです。本文とは関係ありません。
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