小田急、混雑が生んだ「ワイドドア車」の試行錯誤 巨大扉で通勤ラッシュに応戦、座席なし機能も

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ワイドドア車は、1987年以降増備が続いていた当時の最新型車両1000形を基本として開発。まず1991年に6両編成2本、4両編成2本の20両がデビューした。前面のデザインは一般の1000形と同じだが、側面のドアは先頭車両の乗務員室寄りの1カ所が1.5m幅なのを除き、ほかは全て2m幅。代わりにドア間にある開閉可能な窓は幅66cmと小さくなり、ほかに類を見ない独特の外観となった。ドア間の座席は通常の7人掛けから5人掛けに減ったものの、1人当たりの幅は44cmから46cmに拡大。これは現在の最新鋭車両5000形などと同じだ。

単にドアを大きくしただけではなく、1000形ワイドドア車は「次世代の電車」のあり方を模索し、さまざまな新機軸を盛り込んだ。今では当たり前となった駅名や行先などの車内案内表示器もその1つだ。20両のうち10両はLED(発光ダイオード)、もう10両は9インチの液晶モニターをドアの上に取り付けた。まだカラー液晶画面を見かける機会が少なかった当時、車内ドア上のモニターには近未来感があった。

側面の行先表示器も従来の幕式に代わり、細長い外観のLED式を導入。窓はボタン操作によって空気圧で自動開閉するパワーウインドウを採用した。これは現在に至るまで小田急の車両でワイドドア車が唯一の存在だ。

輸送力アップへ「座席なし」も

そして、最大の新機軸は「座席折りたたみ機能」だった。ワイドドア車はラッシュ時の輸送力増強を狙い、6両編成と4両編成をつないで10両編成にした際に中間となる5両(4両編成のうち2両と6両編成のうち3両)の座席を折りたたんで「座席なし」にできる機構を備えていた。

ワイドドア車は1991年4月1日、平日朝ラッシュの本厚木発新宿行き準急で運転を開始。まず、混雑が激しい時間帯である新宿駅8時27分着と8時50分着の列車に投入された。座席の折りたたみ機能は「実施は利用者からの意見や要望を把握してから」(「小田急75年史」)として、まずは使わずにスタートした。

当時の業界誌によると、テストではワイドドアによる乗降時間短縮の効果が見られた。社員500人を動員して乗車率200%から150%になるまで降車し、その後250%まで乗車するという試験を実施した結果、一般車両と比べて「乗降時間で10秒程度短縮されることが確認された」(「鉄道と電気技術」1992年2月号)とある。実際、とくに降車の多い駅では同時に大勢が降りられるワイドドアは一定の効果を発揮したようだ。

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