なぜ、四国新幹線なのか。香川県交通政策課の岩崎弘和課長に改めて尋ねた。
「人口が減少していく中で今後、四国をどう維持していくか。高松と徳島、高知、松山を結ぶ線路は蛇行していて、整備・延伸が進められた高速道路と比べ、速達性の面で鉄道の競争力が低下している。抜本的な鉄道の高速化が必要。その手段は新幹線になる。官民挙げて取り組んでいく必要性があります」
課には新幹線の担当職員が1人配置され、県としての力の入れ方がうかがえる。また、新幹線を扱う課は企画系や土木系の部局に置かれることが多いが、同課は観光系の組織である観光振興課とともに「交流推進部」に所属する。これまでも航空政策と観光政策を連携させた取り組みを進めてきたという。
地元に強いフラストレーション
岩崎課長の言葉どおり、四国島内の都市間移動は高速道路の存在感が大きい。高速バスを使えば、高松から徳島は約1時間30分、高知は約2時間、松山は約2時間40分で到達できる。料金は2150円~4100円だ。
さらに、高速バスが各地と主要都市を縦横に結び、高松からは、東は東京の新宿・八王子、西は福岡へ路線が広がる。大阪までは最短3時間余り、正規運賃は4100円。通常ダイヤで1日約50往復、コロナ禍のダイヤでも25往復が運行されている。
一方の鉄路は旗色が悪い。高速バスより割高なうえ、所要時間が長かったり、乗り換えが必要になったりする路線や時間帯がある。電化区間も予讃線など一部に限られる。
加えて、四国は日本の主要4島で唯一、新幹線が走っていない。構想も、着工の前提となる「整備計画」の手前の「基本計画」止まりだ。四国の中心都市・高松に加え、人口51万人と四国最大の松山も、行政や経済界を中心にフラストレーションが強い。高松市では「四国にだけ新幹線がないのはつらい」という嘆きにも接した。
1980~90年代、東北新幹線建設が先送りされ続けていた「盛岡以北」でも同様のため息が無数に聞かれた。「あらざるを憂えず、等しからざるを憂う」。同区間の着工を求めていた人々の合言葉だ。「新幹線がないこと自体を我慢できないのではない。同じ東北なのに、盛岡以南にだけ建設された不公平さが許せない」――。新幹線がシビック・プライドや地元の屈折した感情を刺激し、地域政策に影を落としてきた事例は枚挙にいとまがない。
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