アメリカの高校生が学ぶ「環境経済学」の超基本 持続可能な経済成長をどのように実現するか
「木を切ってしまうのだから、結局は何も残らないのでは?」と考える人もいるかもしれない。しかしこの考え方は、経済的なインセンティブの存在を無視している。人々がトウモロコシを食べるのをやめたら、トウモロコシの生産は増えるだろうか? それとも減るだろうか?
正解は「減る」だ。誰もトウモロコシを食べなくなったら、農家にとってはトウモロコシを育てるインセンティブがなくなる。反対に人々がトウモロコシをたくさん食べるようになったら、農家もたくさんトウモロコシを育てる。木もそれと同じだ。ただし、木は育つまで時間がかかるので、その分トウモロコシよりも高価になる。
石炭、石油、天然ガスなどは再生できない資源だ。この場合も、市場は生産者と消費者の双方にインセンティブを与える。
再生不能資源への需要が高まると、価格が上昇する。すると、これらの生産要素を使用する企業の生産コストが上昇する。生産コストの上昇は、企業にとって生産性を高めようとするインセンティブになる。
たとえば、生産過程で天然ガスを使っている企業は、天然ガスの価格が上がれば、できるだけ効率的に天然ガスを使用する方法を考えるだろう。無駄が多く、非効率的な企業は、効率的な企業との競争に敗れていく。そして最終的に、市場から撤退することになるだろう。
コモンズの悲劇
1968年、アメリカの生態学者、ギャレット・ハーディンは、科学専門誌『サイエンス』に寄稿した記事の中で「コモンズの悲劇」という概念を取り上げた。ハーディンによると、政府や個人の所有地でない共有地は、過度な資源開発の犠牲になりやすいという。
ハーディンの主張は基本的に正しい。共有地の所有者はすべての人であるというのなら、つまり誰の所有地でもないということだ。
たとえば、ある村の近くに共有の牧草地があるとしよう。牛を育てている農家は、その牧草地に自分の牛を放して餌場にする。牧草地は自分の土地ではないので、負担するコストもまったくない。そのため農家は、できるだけたくさんの牛を牧草地に放す。当然ながら、他の牛農家も同じことを考えるので、共有の牧草地はあっという間に牛に食い尽くされ、すっかり荒れ地になってしまう。これがコモンズの悲劇だ。
この問題への解決策はいくつかある。よく選ばれがちだが、もっとも効果の薄い解決策は、「政府がコモンズを管理する」というものだ。もっと効率的な解決策がいいのなら、「コモンズを私有地に変える」という方法もある。そしてもっとも古く、そしてもっとも実用的かもしれない解決策は、「農家同士の話し合いで決めてもらう」ことだ。