日本人は「円安」がもたらした惨状をわかってない 自ら危機意識を持って脱却する必要がある

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十分に円安にすれば、輸出が増えるだけでなく、企業の利益を増やすことができる。

「ボリュームゾーン」と呼ばれた政策は、「安売り戦略」の典型だ。これは、新興国の中間層を対象に、安価な製品を大量に販売しようとするものだ。

この考えは、1996年度の『ものづくり白書』で取り上げられた。そして、2000年頃から顕著な円安政策が始まり、また、1990年代前半までは上昇していた賃金が頭打ちになった。

韓国と台湾は、技術を高度化

この間に、韓国、台湾では国内の賃金が上昇した。また、為替レートが傾向的に減価することもなかった。

これは、少なくとも結果的に言えば、「差別化戦略」がとられたことを意味する。品質を向上させ、あるいは中国が生産できないものを輸出するか、新しいビジネスモデルを開発したのだ。

実際、下記の図に見られるように、韓国の場合、製造業輸出品に占めるハイテク製品の比率は、30%程度であり、最近では35%程度に上昇している。それに対して、日本の場合には20%程度であり、最近では低下している。

(外部配信先では図表や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

台湾では、鴻海が、中国の安い賃金を活用して、電子製品の組み立てを行うビジネスモデルを開発した。また、TSMC(台湾積体電路製造)は、最先端の半導体製造技術を切り開いた。

日本では貿易黒字が減少し、貿易赤字に

以上の政策がとられた結果、何が起こったか?

日本では、2000年頃から輸出が増えた。しかし、輸入額も増大した。

輸入品の中には、原油など、価格弾力性の低いものがある。これらは、輸入価格が上昇しても輸入量を減らすことができないため、通貨が安くなれば、輸入額がさらに増える。

このため、貿易黒字は減少する。

実際、日本の貿易黒字は2005年頃から減少に転じ、さらに貿易収支が赤字化した。

貿易収支悪化は、リーマンショック後に顕著になった。2012年頃の原油価格高騰期には、とくにそうだった。

日本ではサービス収支が恒常的に赤字なので、貿易サービス収支が悪化する(2011年以降、2016、2017、2018年を除けば、赤字)。これを所得収支(対外資産からの収益)で賄う形になった。

これは、家計で言えば、退職後の人々と同じパターンだ。給料を得られないので、それまで蓄積した資産の収益で生活を支えるパターンとなる。

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