医系技官の存在が国民を不幸にしている--『さらば厚労省』を書いた村重直子氏(医師)に聞く
厚労省は医療の分野でも全国一律ルールを作るやり方をする。これは、患者の状況は一人ひとり違うという医療の現場とは、そもそも合わない。しかも「罰則付きの通知行政」で事細かに医療の中身に口を出す。そこでは現場や患者の願いと大きな違いが出てきてしまう。
--内部からの改革はできないのですか。
それは構造的にありえない。自分の担当する権限の範囲内で多少のことはできるかもしれないが、この国の医療のあり方を変えるような、厚労省を変えるようなことはできない。相手は、人事権を握った大いなる運命共同体の利益集団だ。それに属しているかぎり、いつも権限拡大の方向に走ることになる。
--たとえば?
昨年の新型インフルエンザに対する行政がわかりやすい。前近代的な「水際作戦」はなぜ始まったか。現場を混乱させるばかりだった。「検疫した346万人のうち見つかった患者はわずか10人」との報告もある。かえって感染する危険を増やし、重症者に対しては死に追いやりかねない方針も打ち出した。医系技官が国民の健康よりも自分たちの都合を優先させた結果だ。
--ワクチンの量の確保、供給のスピードでも問題を残しましたね。
現場の混乱に加えて安全性も損ねることを承知で、方針を役人だけで密室で決めている。
その後もワクチン供給について護送船団方式は崩していない。国内メーカーに補助金を出し、緊急時にも国内で生産ができるという名目を打ち立てているから、輸入しない前提に向かって走っていることになる。リスクを分散させるという危機管理の観点から見て、それでいいのかどうか。