楽天・星野監督が見せた、男の引き際

あの「鬼の形相」には、もうお目にかかれない

星野さんがプロ野球史上初の戦後生まれの監督として中日で指揮を執って5年目となる1991年のことである。6月中旬から首位を快走し、8月が終わった時点では2位の広島に4.5ゲーム差をつけていた。

「腹を切る覚悟はあるんか?」

ところが、9月に入って急ブレーキがかかる。10日からの直接対決、広島3連戦(ナゴヤ球場)で3タテを食らい首位陥落。ズルズル後退して優勝が絶望的になっていく中、星野監督が親しい知人に「今年で辞める」と漏らしているという情報が入ってきた。

複数の証言も得られた。9月21日。遊軍記者だった私はヤクルト戦(同球場)の試合中に、「星野退団」という予定稿を書き上げ、球場をそっと抜けだした。タクシーで向かった先は、名古屋市千種区にある星野監督の自宅。1対1で本人にぶつけるためだ。

しかし、試合が終わって1時間がたっても星野さんは帰ってこない。そのうち他社の記者が一人、二人と集まってきた。ぶつけるのは玄関の中に入る一瞬しかないなと思ったところへ、やっとご帰還の星野さんが差し障りのない対応をしているときだった。

ライバル社の記者がまた一人、息を切らしてやってきた。星野さんが「何しに来たんや。おまえには昼間〝辞めん〟言うたやろうが!」と言うと、その記者は「退団でいきます。取材して自信があります」と返した。

すると星野さんの表情は一変。「おまえ、わしが辞めんかったらどうするんや。腹を切る覚悟はあるんか?」と怒鳴りつけた。当時まだ44歳のど迫力。びびっていたら、「鬼」は、今度は私を指さして言った。

「おまえも書け!!」

そう言われても、もう予定稿は出してある。正直に「僕も書いてます」と伝えたら、星野さんは「辞めたる。おまえらがそんなにわしを辞めさせたいんなら、辞めたる」と吐き捨ててきびすを返し、玄関のドアをバタンと閉めた。

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