オリオンビール、「酒税軽減廃止」で問われる覚悟 20%減免の5年維持という要望は通らなかった

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しかし今は違う。菅氏は首相を降り、下地氏は先の衆院選で落選。オリオンの要望が通らなかった背景には、「菅ー下地」の影響力が過去のものになったからと見る向きがある。「下地は今回、何もできなかったな」。自民党沖縄県連の幹部は勝ち誇ったように呟く。

一方、下地氏は「自分が当選していたら、同じ結論にはならなかったはずだ」と唇を噛みしめた。

オリオンの足元の業績はかんばしくない。2019年、アメリカの投資ファンド、カーライル・グループと野村ホールディングスに買収され、新スポンサーに招聘された早瀬京鋳社長と共に第2の船出に出たが、その後の業績は3期連続の減収減益となった。

コロナの影響で飲食店休業や観光客減少が直撃した2021年3月期は売上高190億円(前期比76%)、営業利益2億円(同10%)と大きく沈み、2021年6月、早瀬社長は「一身上の都合」で退任した。

逆風が吹き荒れているが、5年後をメドに新規上場を果たすというミッションも負っている。出資したカーライルや野村はイグジット(資金回収)しなければならないからだ。

今回の税制改正においてもオリオンは政府・自民党に「今後5年をメドに株式公開(IPO)を目指して」ており、「数年間かけて上場準備に入るため、酒税軽減措置の5年間の期限延長を希望します」と要望していた。

軽減率を5年間延長してもらうことで設備投資の資金を確保し、業績を回復させながら上場準備を進めたかったオリオン。しかし、要望が通らなかったことでそのシナリオは見直しを迫られている。

社長交代で迎える正念場

12月1日、オリオンでは早瀬氏の後任に村野一氏が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した。ソニー時代にハンガリーやメキシコの現地法人社長を経験し、出版社大手デアゴスティーニ・ジャパンでは社長とアジア統括を兼務。2018年から2021年11月まではカミソリ大手シック・ジャパンの社長を務めた人物だ。

就任会見では「日本や世界の皆さんに、毎日飲みたいと思ってもらえる商品を出したい」と県外、海外販売に注力する意向を語った。培ってきた商品企画や海外マーケティングの手腕に注目が集まる。

減収減益の傾向に歯止めをかけ、5年後をメドに新規上場させる。重いミッションを成し遂げるためにも、オリオンには政治的、経済的な「自立」が求められている。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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