ゴルフは、仲間うちでプレーするのもコンペに出場するのも、どちらも楽しいものです。ただし、ひたすらスコアを上げるためだけにヒステリックなまでのプレーをする人とは、一緒にラウンドしても楽しめません。またコンペの場合、特にハンディがあまりに違ったりする場合には、お互いに気を使いながらラウンドしますが、それでも心ない一言でいっぺんに全員のモチベーションが落ちてしまうようなことも何度か経験しました。
もちろんコースに出る以上、周囲に迷惑をかけるような腕前では、どんなに人格者であろうとマナー違反です。要は、皆が心地よくプレーできること。人を不快にさせないこと。二度と一緒にラウンドしたくないなんて思われたらおしまいです。アマチュアゴルフの鉄則は、楽しくラウンドすることですから。
たかがゴルフ、されどゴルフ。相手の人となりが手に取るようにわかってしまいますから、人間関係をよくもすれば、悪くもします。ゴルフを始めて何年か経ったころ、それが骨身にしみる経験をしました。
ファッションデザイナーという職業は、わがままで自分勝手な人間だと思われがちです。当時、地方の小さな工場さんに仕事を依頼しては門前払い、という経験を何度か繰り返しました。仕事を引き受けていただけた場合でも、横柄なファッションデザイナーという目で見られ続け、孤独でした。ものづくりは共同作業なので、支えてくれる人たちがいなければできません。
そして、ものづくりには人間の精神が伴います。よりよい作品を仕上げるためには、私という人間を理解した上で、この人のためなら何とか頑張ってみようか、という気持ちで仕事に携わっていただけないと、うまくいきません。
だから私は、現場の職人さんたちに、ファッションデザイナーという肩書に関係なくコシノヒロコという一人の人間を知っていただき、素の私を理解していただきたいと切に望みました。
あるとき、「私ゴルフ大好きやねん、みんなでゴルフやろうよ」と誘いました。皆さんもゴルフが大好きだったんですね。「やろうやろう」ということになりました。非常に和気あいあいと、ざっくばらんな雰囲気のラウンドができました。このゴルフをきっかけに、工場の皆さんは私との間のシャッターをガラガラと開けてくれたのです。それ以来、この親睦ゴルフは10年も続き、ものづくりという私たちの共同作業の質は格段に向上していきました。
ゴルフは自分を試す機会。意識しようとしまいと、自分自身の人間性を披露する場です。人はちゃんと見ています。単なる遊び、余暇活動だと侮ってはいけません。私は肝に銘じています。「心してゴルフせよ」。
大阪・岸和田生まれ。文化服装学院在学中よりキャリアを重ね、東京、ローマ、上海、ソウルなどでコレクションを発表、2009年からは17年ぶりにパリコレクションも再開。近年は書画作品の展覧会も多数開催している。1997年第15回毎日ファッション大賞受賞、01年大阪芸術賞受賞。
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