ディズニーが劇場公開から配信に切り替えた理由については明かされていませんが、現実的に8時間の映画を劇場公開するには無理があります。ディズニープラスがなければ、当初の計画通り劇場で公開できる範囲に収めることになったのかもしれません。それが今はディズニーにとって配信事業は最も力を注ぐビジネスでもあり、劇場公開だけにこだわっていません。だからこそ、クリエティブファーストで超ロングバージョンに切り替えられたドキュメンタリー作品を見ることができたとも考えることができます。作品を流通する幅が広がったタイミングとも偶然にも重なったというわけです。
ジャクソン監督の光る構成力
貴重とは言え、8時間のドキュメンタリーは単純に、長いです。ただし、ただひたすら長いドキュメンタリー作品ではないとも言い切れます。それはやはり、ジャクソン監督の腕によるものが大きいと思うのです。ジャクソン監督の代表作には、ファンタジー映画の傑作として評価の高い2001年から2003年にかけて3年連続で公開された『ロード・オブ・ザ・リング』があります。完結編の『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』は2004年のアカデミー賞で作品・監督賞を含む全11部門も受賞しています。『ベン・ハー』と『タイタニック』に並ぶアカデミー史上最多タイ記録を成し遂げています。
長編作品が得意とも言うべきジャクソン監督の構成力は『ザ・ビートルズ:Get Back』でも活かされています。まず、スタジオ入りから伝説の“ルーフトップ・コンサート”の次の日までの22日間を時系列で追っている見せ方にあります。先のVarietyのインタビューでジャクソン監督は「22日間の物語を完全なカタチで届けている」と語っています。その完全なカタチとは1日の始まりから終わりまで、その日に起こったことを20~30分のショートフィルムのように描いていること。さらに1日が終わった時点でカレンダーを塗りつぶす映像を加えて、22日間の日記として演出していることです。これによって、ビートルズが1969年当時に体験した1日1日を見ている側も同じように体験している感覚に陥ります。
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