コロナ政局で露呈した日本政治「統治不全」の深刻 岸田首相「新しい資本主義」に決定的に欠けたもの

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菅首相はデジタル庁構想を提起し、関連法の成立を経て、新設にこぎつけた。ただ肝心のマイナンバーカードの普及や銀行口座との連動などはめどが立っておらず、先進国のデジタルの水準からは程遠い。個人の金融情報などが把握されることへの反発に配慮して政府や地方自治体が踏み切れないという。その壁も突破されていない。

2021年8月、コロナの感染拡大と医療逼迫の中、菅首相は自民党総裁選への出馬を断念。菅政権は1年あまりで幕を閉じた。総裁選は岸田文雄、河野太郎、高市早苗、野田聖子各氏が立候補。河野氏は「改革」を掲げたが、年金や原発の問題をめぐる「改革」の中身が明確ではなく、ほかの候補から集中砲火を浴びた。

「聞く力」を掲げた岸田氏が、安倍、麻生太郎両元首相らに支援され、総裁・首相に選出された。続く衆院の解散・総選挙でも自民・公明両党の与党が圧勝。野党の攻勢を、自民党内の顔を代えただけの「疑似政権交代」でしのいだ。総選挙後、岸田政権は本格始動した。

格差是正には富裕層への増税が欠かせないが…

岸田政権はどこに向かうか。コロナ対策では、新型のオミクロン株対策として水際対策の強化などを早めに打ち出し、病床の確保も大幅に増やした。12月の臨時国会では、18歳以下の子供を持つ家庭に10万円相当の給付金支給などを盛り込んだ大型補正予算を提出。給付金を現金5万円、クーポン5万円に分けたことが自治体から反発を受け、一括10万円でもよいと方針変更するなど、混乱もあったが、岸田首相の周辺は「聞く力」で当初案を改める柔軟性を発揮したと説明している。

一方で、岸田首相は「新しい資本主義」を訴え、半導体工場への巨額補助金を支出するなど政府主導の産業政策に踏み出した。企業に賃上げを求め、勤労者の所得増を通じて景気回復を実現したいという。

しかし、新しい資本主義を掲げるのであれば、格差是正に向けて株式の売却益などで潤う富裕層への増税が欠かせないが、2022年度の予算案編成では先送りされた。

医療体制についても、感染拡大時に民間病院や開業医を動員するための法改正は不十分だ。いずれも、自民党支持の関連団体の既得権の壁を突き崩せなかったためだ。コロナ対策で露呈した統治能力の欠如を克服する道筋は見えていない。

岸田氏は自民党総裁選の前には、例えば選択的夫婦別姓に前向きな姿勢を示していたが、安倍元首相ら保守派の支持を得るために慎重論に転じた。首相就任後も、選択的夫婦別姓など多様性に向けた施策には後ろ向きだ。経済や社会保障の政策とともに、社会制度の抜本改革に向けた本気度は感じられない。

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