コロナ政局で露呈した日本政治「統治不全」の深刻 岸田首相「新しい資本主義」に決定的に欠けたもの

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1980年代後半、日本政治は大きな転機を迎えていた。アメリカとソ連の冷戦構造は崩壊、高度経済成長は終焉し、少子高齢化の波が押し寄せていた。リクルート事件などスキャンダルも頻発、自民党支配は大きく揺れたが、消費税を導入して社会保障の財源をどうにか確保した。

自民、社会両党による55年体制は制度疲労をきたし、1990年代には政治改革が唱えられた。1993年、自民党が初めて下野して非自民政権が発足。衆院に小選挙区比例代表並立制を導入する政治改革が実現した。

それでも、不良債権問題などで経済の低迷は続く。

2001年に「改革」を掲げた小泉純一郎首相が登場。郵政民営化を強行したが、抜本的な構造改革は進まなかった。

2009年には民主党が政権を奪取、本格的な政権交代となった。事業仕分けなどで行政改革を進めようとしたものの、成果が出ないまま、3年あまりで政権を自民党に引き渡した。

2012年に発足した第2次安倍政権はアベノミクスの金融緩和によって景気回復、雇用の改善に成功したが、財政や社会保障、デジタル化など統治機構の抜本改革は進んでいなかった。

2020年1月、その日本を直撃したのがコロナだった。

緊急事態に対応できなかった安倍政権

感染が急拡大する中で、安倍政権は動転した。公立学校の一斉休校を打ち出し、教育現場が混乱。全国民に布マスク2枚を配布したが、不評で「アベノマスク」と皮肉られた。

病院のベッド数は先進国トップクラスなのに、医師や看護師の手当てができずに、病床が逼迫。自宅療養中に病状が悪化し、入院できずに亡くなるケースが急増した。民間病院や開業医を動員できる体制がなく、緊急事態に対応できないのである。

感染拡大の中で、経済情勢は悪化。安倍政権は全国民に一律10万円の給付を決めるが、マイナンバーも活用できず、国民の銀行口座も把握されていないため、支払いに手間取った。「IT先進国」のはずが、「デジタル途上国」だったことが判明した。

安倍首相は2020年夏、事実上、コロナ対応に行き詰まって辞任。後継の総裁・首相には菅氏が就いた。安倍政権の7年8カ月、官房長官として官僚ににらみを利かせてきた菅氏は、霞が関に号令をかけてワクチン接種を加速させた。大規模接種会場を設置、自衛隊を活用して接種を進めた。初動で遅れをとったワクチンの接種件数は急増した。

それでも、病床の逼迫は深刻化。千葉県では、コロナに感染した妊婦が入院できず、自宅で出産して赤ちゃんが亡くなるという痛ましい事態も起きた。民間病院や開業医がコロナ感染対応に協力する態勢は整わず、剛腕で知られた菅首相にとっても、医療問題の壁は厚かった。

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