冒頭で述べたように、今回の後ろ倒しで、面接をはじめとする採用選考の解禁が、大学4年生の4月から8月へと、後ろ倒しになります。一方、正式な内定時期はこれまでと同様に10月1日になると考えられています。ということは、最大6カ月(4~9月)の期間をもって行ってきた「新卒採用」という業務を、わずか2カ月(8~9月)で終わらせなければならなくなったということです。
企業の採用担当者としては、当然「よい人材を十分に採用できなくなるのではないか」という危機感を持つことになります。そのため、解禁日以前に優秀な学生にコンタクトできる貴重な手段として、「リクルーター」を復活させる動きが活発になっているのです。
8月30日の日本経済新聞「リクルーター 採用難で復活」という記事では、NECや日立製作所、東芝などの大企業がリクルーターの活用を活発化させていることが報じられました。私が採用をお手伝いしているある大手企業でも、従来100人だったリクルーターを一気に5倍の500人に増員し、後ろ倒しに備えています。
リクルーターによって見いだされた学生が内定していけば、当然、就職支援サイトを通じてオープンにエントリーしてきた学生の席が減ることになります。かくして、「就活後ろ倒し」によって、就職活動はクローズドなものへと、逆戻りしてしまうと考えられるのです。
なぜ、採用はクローズドではいけないのか
もちろん、一企業の採用は公務員試験などの公のものと違い、クローズドでも問題ないという意見もあるかと思います。ですが、今の日本では、多くの人が「採用はクローズドではいけない」と考えているようです。数年前、それを顕著に示す出来事がありました。
2012年、老舗出版社である岩波書店が新卒採用の応募条件に、「自社から著作を出版したことのある著者の紹介状、又は自社の社員の紹介があること」を挙げたところ、縁故採用を公式に認めたと受け止められ、大騒ぎになってしまいました。岩波書店では、「数人の採用枠に1000人規模の応募があるので、選抜にかける時間と費用を削りたかった」と釈明をする羽目になりました。
すでに説明したとおり、これまでもリクルーターを使って、公式の就職活動が始まる前に内定候補者を絞り込むことは、ごく普通に行われていました。さらに今後は、就活後ろ倒しによって、この動きが活発化すると考えられています。
さて、リクルーターとコンタクトがとれているということは、岩波書店が課した条件のひとつである、「自社の社員の紹介があること」と同義です。つまり、多かれ少なかれ、縁故の有無で採用者を絞り込むことは、多くの企業で行われてきたのですが、この事例のように、大っぴらにコネのある学生だけを採用の対象とすると宣言してしまうと、社会的な非難の的となってしまうのが、今の日本の現状なのです。
ですから企業は、リクルーターはあくまでも学生の理解を深める「キャリア支援」であり、採用選考とは関係がないという立場を取り続けると思います。しかし実態は、すでに見てきたように、水面下の採用活動にほかなりません。
大学の偏差値や自分の交友関係のためにリクルーターに接触できない学生が、就職において圧倒的に不利になる――「就活後ろ倒し」は、そんな「衝撃」をもたらすと考えられているのです。
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