「紙の年賀状」にいまだこだわる人が見落とす視点 日本郵便が“LINEねんが"をスタートする中で

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この傾向は昨年から今年にかけても続き、SNSには「年賀状スルーします」というフレーズが書き込まれているほか、「年賀状じまい」「卒業年賀状」を用意している様子がうかがえます。これらは「自分は送らない」だけではなく、「自分に送らないでほしい」という思いを込めた予防線。そんな相手の気持ちに気づかず、紙の年賀状を送ってしまう人は、相手にプレッシャーを与えている可能性が否めないのです。

高齢化社会だからこそ紙よりネット

誤解のないように書いておくと、どんなにネットが進化しても、紙の年賀状がなくなることはないでしょう。年賀状に限らず、紙を使う機会は減ったとしても、むしろその良さが見直される傾向があるからです。

たとえば雑誌や書籍は「一気に電子版へ切り替わる」と言われてから10年以上が過ぎましたが、今なお紙の存在感は十分。もちろんかつてより部数は下がりましたが、価値や愛着という点も含め、当初の想定以上に踏みとどまっている感があります。紙の年賀状も同じように、あるところまで枚数が下がったあと、再評価されるかもしれません。

それでもやはり紙の年賀状は、出す相手を選ぶ時代に突入したことは間違いないでしょう。コロナ禍の2年弱、「人に会わないこと」が普通のようになりました。会わなくなったからこそ、何らかのツールを使って連絡を取り合ったほうがいいに決まっていますが、それが紙の年賀状である必然性はほとんどないのです。

今後も高齢化社会が続いていくだけに、年始に限らず「元気でいることを伝えよう」とする人が増えるでしょう。しかし、その中心は「早く簡単に連絡できる」ネットであり、高齢者だからこそ「遅く手間のかかる」紙の頻度が増える可能性は低いはずです。

年賀状本来の目的は、もともと訪問して行われていた年始あいさつの代わりに手紙を送ること。その内容には、昨年のお礼、新年のお祝い、近況報告などで、大切なのはこれらの気持ちを伝えることであり、どんなツールを使ってもいいのではないでしょうか。少なくとも「自分は紙の年賀状にこだわっている」という姿勢を鮮明にするほど一方的なものになり、本来の目的から離れてしまうので気をつけたいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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