日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由 国の賃金を決定的に左右するのは何なのか

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労働者の交渉力の低下が賃金低迷に影響していると指摘する専門家もいる。後にIMFのチーフエコノミストとなるオリビエ・ブランチャード氏は2001年にはすでに、賃金シェアの低下は、労働組合の弱体化、新自由主義的な規制緩和策、労働者と政党の過去の提携関係の弱体化に起因すると主張していた。

典型的なOECD諸国では、組合員は1970年代後半にピークに達し、全労働力の半分を占めていた。それ以降、組合員数は減少の一途をたどり、今ではわずか20%になっている。日本では、1960〜1975年には労働者の3分の1が組合に加入していたが、現在は17%にとどまっている。

同時に、反トラスト法が弱体化したことで、一部の"スーパースター企業"が、多くの主要産業で圧倒的なシェアを獲得し、企業の消費者、そして従業員の双方に対する交渉力が強まった。結果、こうした産業における労働分配率の低下は一層深刻になった。

国の賃金の命運を左右するのは「政治」

テクノロジーだけでなく、政治的な影響もある。すなわち、国ごとの賃金の運命は、その国の政策立案者や政治に大きく左右されるのだ。

賃金の伸びが生産性の伸びを上回った4カ国のうち3カ国は、労働者の政治力が強い北欧3カ国だった。一方、国民所得に占める労働分配率が最も低下した4カ国のうち3カ国は、労働協約の対象となる労働者の割合が最も低い日本、アメリカ、韓国だった。

賃金における政治家の影響力を示す一例として、いわゆる「積極的労働市場政策」によって、所得に占める労働分配率をGDPの数%引き上げることができるという事実がある。

これは、失業した労働者の再教育や雇用者と労働者のマッチングなどを通して再就職を支援する施策である。新しい仕事に就ける自信があれば、労働者は賃金抑制に抵抗しやすくなる。驚きはないが、GDPに占めるこのような政策への支出は、日本とアメリカが最下位に近く、北欧諸国が最も多くなっている。

しかし、これだけでは日本の賃金低下が他国より深刻な理由は説明しきれない。日本では何が違うのか。最大の要因は、低賃金の非正規労働者が急増したことである。1980年代には労働人口の15%だった非正規労働者が、最近では40%近くまで増えている。正社員の平均時給が2500円であるのに対し、派遣社員は1660円、パートタイムは1050円にすぎない。

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