日本人の賃金が停滞し続ける「日本特有」の理由 国の賃金を決定的に左右するのは何なのか
これはなぜなのか。経済学者の中には、第1の原因は技術的なもの、つまり情報通信技術(ICT)の台頭だと主張する者もいる。また、労働者の交渉力が弱まっているとの意見もある。ほとんどの豊かな国では、これらの要素が混在していると思われるが、日本の結果は非常に特異であり、政治的なパワーバランスがより大きな役割を果たしていると考えられる。1つずつ説明していこう。
多くの経済学者は、ICTは過去の技術と何かが違うと考えている。具体的には、これまでの技術と比べて、ICTは労働力、特に労働経験がない、あるいは経験が浅い労働力の需要減少を招いた一方、高いスキルを有する労働力への需要の増加につながった。結果、経済成長の成果が資本の所有者の手により多く渡ることになった。
低・中技能労働者が「犠牲」になっている
IMFによると、「世界の労働分配率の低下は、低・中技能労働者の負担となっている。1995年から2009年の間に、低・中技能労働者の合計労働所得シェアは(GDPの)7%ポイント以上減少したが、世界の高技能労働者のシェアは5%以上増加した」。
IMFは、国民所得に占める労働分配率の低下の半分は、新しいテクノロジーが原因と推定している。これはグローバリゼーションによって多少増幅されるが、その影響はポピュリストの政治家が主張するほど大きくはない。OECDは、労働分配率低下の原因の8割は、テクノロジーとその関連事項であると推定している。この見解だと、テクノロジーの発展は避けられないため、この傾向を是正するためにできることはほとんどない。
ここで気になるのは、これが恒久的な変化なのか、いずれは自己修正される一時的な変動なのか、である。
自己修正は、1830年代に「ラッダイト」と呼ばれる労働者たちが綿花工場の機械を破壊して以来、省力化技術の結果として行われてきた。技術によって一部の仕事が失われても、生産性の向上によって得られる収入の増加は、より高い教育を必要とする新しい仕事への需要を生み出す。その結果、労働者はより高い賃金を得ることができる。
長期的に見れば、ICTはこれまでの技術と変わらないのではないだろうか。 OECDは、労働分配率の低下が 「ICTベースのテクノロジーの普及プロセスが鈍化によって徐々になくなる」かどうかを判断するには、まだ十分なデータがないとしている。時間がその答えを出すだろう。
ICTは重要だが、それだけでは説明できない。なぜなら、賃金抑制が始まったのは1970年代後半から1980年代前半であり、パソコンとインターネットの融合によってICT革命が起こる20年前のことだ。また、同じ技術を使っているのになぜ、豊かな国でこれほど賃金と生産性の格差があるのだろか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら