葬式鉄もノーマーク、2階建て電車「215系」の引退 着席通勤需要に応え、1992年に4編成が登場

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2021年3月のダイヤ改正では、東海道線関連のライナー列車(着席列車)の「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」が消え、代わって特急「湘南」の運転が開始された。事実上の格上げ・値上げで、車両は特急「踊り子」で使用されているE257系に置き換えられている。

これにより、特急「踊り子」や「湘南ライナー」で長らく使用された185系と同じく、215系も定期列車の職を失った。185系は廃車が進みながらも、しばらくは臨時列車で使用される機会が与えられた一方で、215系は完全に失職した。

2021年5月からは215系の廃車が開始され、4編成中2本が5月中に青森に輸送されたほか、残る2本は6月と7月に長野総合車両センターに輸送されている。いずれも廃車・解体に伴うもので、機関車に牽引されて青森や長野に旅立っていった。

消える2階建て車両、残る2階建て車両

215系が引退したことで、長距離通勤の要素を持つ車両が消える。JR東日本で造られた長距離通勤向けの車両では、215系のほかにも常磐線向けで1両だけ2階建て車両が造られ、クハ415−1901と名乗っていた。215系も日中の使い勝手に難があったが、常磐線向けの車両も使い勝手が難しく、常磐線での車両の置き換えに合わせて2006年に廃車されている。

結局のところ、途中駅などでの乗り降りの問題が解決せず、引き続き2階建てで造られているのは、定員の少ないグリーン車だけだ。人口減少という時代の変化もあって、普通列車と普通車による着席通勤の取り組みは終わったといってよいだろう。

「湘南ライナー」の廃止が発表された頃、筆者も215系の「湘南ライナー」や185系の「ホームライナー小田原」に乗る機会があった。「ホームライナー小田原」ではグリーン車を含めて7両編成と短い列車だったこともあり、車内は混み合っていたが、215系を使用した「湘南ライナー」はガラガラで、ボックス席に1人という優雅な使い方ができた。これは、感染症が拡大した今日の状況を反映したもので、感染症が流行する前は満席となるのが当たり前だった列車だ。

「踊り子」で使用された185系が40年間使用された一方で、215系は登場から30年弱で引退した。185系は大がかりなリニューアルを施しているが、215系では大規模な改造がなく、185系の影に隠れた形で静かに身を引いている。

柴田 東吾 鉄道趣味ライター

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しばた とうご / Tougo Shibata

1974年東京都生まれ。大学の電気工学科を卒業後、信号機器メーカー、鉄道会社勤務等を経て、現在フリー。JR・私鉄路線は一通り踏破したが、2019年に沖縄モノレール「ゆいレール」が延伸して返上、現在は車両研究が主力で、技術・形態・運用・保守・転配・履歴等の研究を行う。『Rail Magazine』(ネコ・パブリッシング)や『鉄道ジャーナル』など、寄稿多数。

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