病院倒産「2021年は最低水準」でも油断できない 多くの医療機関はこれから3つの試練に直面する

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「都内のある大学病院では、補助金で黒字になっているから医療器機を購入しようとしている。職員は危険手当程度で給料体系の見直しがないと不満の声が上がっている」(医療関係者)

2年近くコロナの対応に追われてきた医療者の燃え尽き症候群も懸念される。現場を離れる職員が増えたり、蓄積された医療者の疲労や不満が噴出したりすれば、運営存続の危機を招きかねない。

診療所の休廃業が急増

病院の倒産が少ない一方、膨らんでいるのが診療所の休業や廃業だ。帝国データバンクによると、2021年9月時点で診療所の休廃業と解散の件数は359件。このペースで推移すると、通年で480件前後(2020年は411件)にのぼり、2016年以降で最多となる見込みだ。

厚労省の医療経済実態調査によると、2020年度の診療所の損益は黒字だが、前年度に比べて23%減少、補助金を除くと27%減となっている。診療科別に見ると、最も落ち込みが激しかったのは小児科、次に耳鼻咽喉科だ。

直近、2021年6月単月の損益は、いずれの診療科も回復傾向にある。「2020年は休校によって子どもの感染症が激減した。今年はその反動で患者が増えている」(埼玉県内の小児科医)。しかし、2020年に患者減少が激しかった診療所を中心に、「経営者の高齢化も進んでいて廃業が増えている」(帝国データバンクの阿部氏)という。

補助金の見直しに加え、2022年4月には診療報酬の改定がある。財務省は2021年の医療費はコロナ感染拡大前の水準まで回復しているとして、診療報酬のプラス改定には慎重だ。補助金の減額と診療報酬の引き上げが望めそうにない中、医療機関はポストコロナを見据えた“経営戦略”が問われている。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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