病院倒産「2021年は最低水準」でも油断できない 多くの医療機関はこれから3つの試練に直面する

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だが、患者の受け入れを断る「正当な理由」の基準は明らかになっていない。実際は、看護師が不足して当初の見込みよりも患者を受け入れられなかったり、病床を確保していても患者が想定より発生しなかったりした地域もある。

前出のグローバルヘルスの佐藤氏は「それぞれの病院に受け入れを断った理由を聞かなければ『幽霊病床』とは言えない。実態が見えないため、全ての病院が悪質に見えてしまうのが問題だ」と指摘する。

財務省は補助金で病院の利益率が改善したことから、補助金によるインセンティブが過大だったと見る。だが、医療経済学が専門の一橋大学の高久玲音准教授は「補助金が過少だったら受け入れる病院が増えず、病院も倒産し、とんでもないことになっていた。感染状況が読めない中では、結果的に多くの補助金が必要だった」と話す。

コロナ感染者がピークアウトしたこともあり、政府は補助金の効果検証を行う方針だ。この点については、高久准教授も「空床補償の補助金は本来、減収分の補てん。通常医療のキャンセルで減収が著しかった第1波(2020年4~5月)の実績に合わせて支給していた。足元は報酬の高い手術や入院が通常に戻りつつあり、(補助金の)見直しが必要だ」と指摘する。

補助金が“還元”されていない

3つめの試練は医師・看護師の人材確保だ。医業収益が減った病院では、従業員離れも起こっている。「倒産件数は少なかった一方で、従業員の給与、賞与の遅れやカットで職員が辞めてしまうという情報がコンスタントに入ってきた。ベッドは100床あるが、稼働させるための職員がいない。こうした人の集まらない病院が増えている」(帝国データバンクの阿部氏)という。

病院の収入は、全体の6~7割を入院による収入が占める。単価は診療報酬によって決まるため、ベッドをいかに埋めるかが収益拡大のカギとなる。一方、支出で約5割を占めるのが人件費だ。医療機関は稼動状況に合わせて職員を調整することは難しく、費用負担は容易に減らせない。

政府は看護師の賃金を上げる方針を打ち出し、現行収入の1%程度の引き上げを目指している。一方、現場で働く医療者からは「コロナの補助金による収益改善が職員に還元されていない」という声も聞こえる。

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