シナリオはこだわりあるもの。2部構成の全6話の中で、骨格をじわりじわりと見せていき、状況や背景をますます知りたくなります。被害者は死の日時を事前に知らされている設定であることがわかっていくと、その次は何をどうなると罪人扱いになるのかという疑問が生まれ、謎が謎を呼んでいくのです。ただし、前半と後半で登場人物がガラッと変わることに違和感を覚える人もいるかもしれません。これにも実は狙いがあります。「どのような思考を持った人がいると、こうした世界が作られるのか。それを示すためにあえて登場人物を何人も置くことにした」と、アメリカ最大手のエンターテインメント誌『Variety』(2021年11月27日掲載)のインタビューでヨン・サンホ監督は答えています。
カルト宗教団体のリーダーを演じるユ・アイン
物語のフックはカルト宗教団体の存在にあります。地獄に呼ばれる現象は神の裁きだと主張し、不安を誘うようにそれを理由付け、周囲をヒステリックに煽っていきます。
この宗教団体のリーダー(議長)チョン・ジンスを若手実力派のユ・アインが演じています。時代劇『トキメキ☆成均館スキャンダル』で人気を博し、Netflixでは非英語オリジナル映画の中で2020年に記録的な視聴数を獲得したヒットゾンビ映画『#生きている』でも主演を務めています。女性中心の韓ドラファンからも、世界のNetflix会員からも知名度があるユ・アインをあえて不気味な役に起用する意外性は韓国ドラマらしさのひとつ。俳優やタレントありきではなく、作品そのものの完成度を上げるキャスティングです。
罪人を助けるためにすべてを賭ける弁護士ミン・ヘジン役はベテラン女優のキム・ヒョンジュ、後半戦のキーマンである放送局の番組プロデューサーペ・ヨンジェ役は売れっ子俳優パク・ジョンミン、また刑事のチン・ギョンフン役は、映画『あゝ、荒野 前篇/後篇で菅田将暉とダブル主演するなど日本でも活動するヤン・イクチュンです。そして、『梨泰院クラス』でスングォン役を好演したリュ・ギョンスは宗教団体の幹部役で出演しています。いずれも実力派揃いです。
一方、目新しいキャッチーさがある『イカゲーム』のようなエンターテインメント感満載の作品というわけではありません。いわゆる骨太系。長回しでわざと手ブレさせたようなカメラワークで緊迫感を誘う演出などホラーサスペンスの王道です。では、何が最も引きつけているのかというと、メッセージが強い点に尽きると思います。
地獄に送り込まれること以上に、実は恐ろしいのは、他人を憎み、互いを破壊し合う人間であると言わんばかり。ネット時代の誹謗中傷問題や集団リンチ、フェイクニュースといった現代社会を風刺していることがぐさりと刺さります。間違いなく思考を巡らせるはず。作品に哲学的な要素を求める人にとっては、より満足度を得られる作品だと思います。
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