給料上がらない日本と上がった韓国は何が違うか 高い外需依存の課題あるが経済成長を遂げた隣国

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賃金を引き上げるには、就業者1人当たりの付加価値(生産性)を増やす必要がある。これが増えない限り、賃金は上がらない。

ところが、日本の1人当たりGDPは、1980年代までは顕著に増加したが、1990年代の中頃に頭打ちとなり、その後は、冒頭に述べたように、現在に至るまでほとんど変化していない。

20年以上にわたって、1人当たりGDPが停滞しているのだ。

このために、賃金が上昇しない。

この状態から脱却しない限り、賃金が上がるはずがない。

韓国経済は、産業の情報化に成功するか?

韓国の外需依存型経済に危うさが残っているのは、事実である。

米中貿易戦争の影響もあるし、新興国の追い上げもある。

実際、この1~ 2年、韓国の輸出も貿易黒字も、そして成長率も頭打ちになっている。

製造業の比率を下げ、経済構造の情報化を進めていくことが、韓国経済の今後に向けての課題だ

その際にモデルとなるのはアメリカだ。

2020年の1人当たり名目GDPを2000年と比べると、アメリカは2.2倍になっている。 冒頭で述べた韓国の数字に比べれば低いとはいうものの、顕著な成功ということができるだろう。

アメリカは、この期間に、IT革命に成功した。そして、産業構造が情報処理型のものに大きく変わった。データ資本主義という新しい形の経済構造が実現している。シリコンバレーの巨大IT企業群が、その典型だ。

就業者数で見た製造業の比率は10.7%にすぎない(2019年)。

このような変化があったために、経済が停滞せず成長を続けているのだ。

一方、韓国では、就業者数で見た製造業の比率は16.3%だ。アメリカに比べてかなり高い。

また、輸出のGDPに対する比率は、35.3%と高い(2017年)。アメリカの7.9%と大きな違いがある。

韓国は、現在のこのような産業構造を、アメリカのような構造に向けて転換することができるか? 

それが、今後の韓国経済のパフォーマンスを決めることになるだろう。

前回記事:日本と米国「物価上昇の歴然たる開き」を解くカギ(11月28日配信)

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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