亡きお母さんの「におい」探す子へ納棺師の提案 小学生の子どもたちへ残したたくさんの想い
お母さんの痩せた体に触れ、手当てが必要なところがないか確認し、布で隠しながらお口やお鼻を綺麗に拭きます。
「ご闘病は長かったのですか?」
故人の妹さんにお聞きします。元気な頃から比べるとどのくらい痩せたのか、お顔色の変化はあるのか、どんな方だったのか。故人のことを知るために最初の質問です。2年間の闘病生活、最後の半年は自宅で過ごされた故人。最後の夜もお子さんたち、妹さんとたくさんの話を交わされたそうです。
そうか、お母さんと過ごした時間の中で、小学生の娘さん、息子さんはお母さんの死を少しずつ理解していったのか……。すごいお母さんです。
「お母さんのにおいがない」
見えないように手元を隠し、お口の中を消毒した後、少量の綿を痩せた頬の内側に添わせるように入れ、不自然にならないように整えます。準備をしていると、お子さんたちが時々お母さんのところに来ては鼻を近づけてにおいをかぎ、離れて行きます。
何だろう?
見た目はいつもと変わらなくても、亡くなってしまうと口や鼻などからにおいが発生してしまいます。お別れの時間の邪魔をしないように、私はいつもにおいがないことを一番にお体の手当てを行っていました。
しっかりと手当てをしたけど……と心配になり、「何かいつもと違う?」と聞くと、「お母さんのにおいがない」。
思いがけない返事に驚きながらも、続けて、「お母さんのにおいってどんなにおい?」と聞くと、すぐに、「お化粧のにおい!」という返事。
じゃあ一緒にお化粧しよう、と提案すると、お子さんたちがニコニコしながら顔を見合わせました。急に立ち上がると走って廊下につながる扉の向こうに消えていきました。
1分もしないうちに滑り込むように戻ってきました。お姉ちゃんが説明をしてくれます。
「これがお気に入りのファンデーションと口紅。これが大切なチーク。いつも朝はこのチークをつけるの。つける順番はねえ……」
もう、話が止まりません。私もうれしくなって「うん、うん」と話を聞きます。朝起きるとベッドの上でお化粧をするお母さん、もしかすると顔色が悪くなっていたことを隠すためだったのかもしれません。
もう我慢できないという感じで、弟さんも教えてくれます。
「この、ヘアーオイルは海外のもので、すごく高いんだよ。ココナッツのにおいがするんだ。いいにおいでしょ」
そう言って慣れたようにオイルを手にとって、お母さんの髪を撫でるように、丁寧につけていきます。そして髪の毛に顔を近づけて何度も大きく息を吸います。
「お母さんのにおいだー」
お子さんたちがあまりに楽しそうにお母さんのお世話をするので、お母さんの妹さんもそばにきて、笑いながらお子さんたちと一緒にお化粧をして髪の毛を整えます。
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