日本企業がGAFAに立ち向かうための「必須条件」 スタートアップへの成長資金供給に政府も本腰

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トップの通信簿ランキングで首位となったレーザーテックは、09年7月に現社長が就任してから時価総額は約267倍に上昇。日本の上場企業全体の時価総額でもトップ50に入りそうな勢いだ。半導体の露光工程に使うマスク欠陥検査装置というニッチな分野で強みを発揮している。

4位のトリケミカル研究所も、同じくニッチな分野に強みを持つ。半導体の超微細加工に必要な特殊化学材料を主力とし、5G(第5世代移動通信システム)で需要が盛り上がる光ファイバー向けなどでも業績を伸ばす。

上場後のM&A(合併・買収)を積極化する新興企業も目立ち始めた。前述のビザスクに加え、ソフトウェアの品質保証を手がけるSHIFTは、2カ月に1社というペースでM&Aを実行している。

顧客企業が開発したソフトウェアやサービスをテストするだけでなく、M&Aによって企画や設計、開発、管理、さらに完成したサービスのマーケティングや営業まで担うことを目指す。SHIFTは新興成長企業ランキングで26位、トップの通信簿ランキングでも32位に入っている。

政府も後押しするために動き出した

上場後の企業の成長を後押しするために、政府も動き出した。

「日本の上場の仕組みでは、スタートアップではなく証券会社の顧客が儲ける構造になっており、スタートアップに十分な資金が回っていない」。岸田内閣の提言には、IPO(新規株式公開)のあり方をめぐる、こうした具体的な内容も盛り込まれた。

背景にあるのは、IPO時の公開価格が過小に設定されることで、起業家の資金調達額が国際的に見て少なくなっているというデータだ。そのため、公開価格設定プロセスの透明化や、買収時にスタートアップと投資家が納得した形で合意し公開価格を決めるSPAC(特別買収目的会社)制度を導入するという議論が、関係機関を巻き込み始まっている。

SPACについては米国で「技術力を誇大に宣伝して投資家を欺いた疑いがある」として、詐欺罪で起訴されたケースもある。導入には慎重な議論が必要だが、選択肢として浮上していること自体がスタートアップに対する期待の表れといえるだろう。

株価の面でも期待はある。大和証券の壁谷洋和・投資情報部長兼チーフグローバルストラテジストは、「TOPIX(東証株価指数)の予想PER(株価収益率)は約14倍の一方、米国の代表的な株価指数・S&P500の予想PERは約21倍で、通常は3~4ポイントの開きが7ポイント程度の状況が続いている。日本株は相対的な割安水準にあるほか、経済活動の再開も出遅れたため、米国よりも株価の伸びしろが大きいのでは」と指摘する。

また、FRB(米連邦準備制度理事会)は11月からテーパリング(量的緩和の規模縮小)に着手しているが、「金利の上昇局面では、GAFAMのようなハイテク・グロース株よりも景気敏感・バリュー株が優位になる傾向がある」(壁谷氏)という。 

日本経済の活力は民間企業に懸かっている。

二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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