8万人足りない!米国「トラック運転手不足」の末路 なり手は減り続け、配送期間は長くなる一方
5万ドルを超す学生ローンを抱えたマイケル・ゲーリーは、大学を中退して2012年にトラックの運転手になった。それで請求書を支払えるようになったし、トラックで寝泊まりすれば出費も節約できた。
だが人間関係面の負担は大きかった。何週間も続けて家を離れる必要があったし、自身の健康を優先することもできなかった。不規則な業務時間のために視力検査の予約変更を繰り返さざるをえず、実際に検査できたころには最初の予約から3年がたっていた。ゲーリーは今年10月6日、この仕事を辞めた。
「トラックの運転がすべてになってしまい、私生活というものが持てなかった」。ワシントン州バンクーバー在住で現在58歳のゲーリーは「我慢の限界だった」と語る。
人手不足は推計8万人と歴史的水準
トラックの運転手不足はかねて問題となってきた。が、ベビーブーマーが大量に定年を迎え、ストレスの少ない仕事に転職する運転手が増えていることから、アメリカのサプライチェーン危機は深刻さの度合いを増している。
店舗の棚からは商品が消え、客はクリスマスシーズンのプレゼントが買えずに焦り狂う。港では陸揚げされた貨物のトラック輸送が追いつかず、入港できないコンテナ船が沖合で大渋滞をつくっている。倉庫の受け入れ能力は全国的に枯渇し、配送予定日が数日先や数週間先どころか、数カ月先に延びた商品も少なくない。
アメリカトラック協会が10月に公表した報告書によると、運転手不足は推計8万人と記録的な水準となっている。しかし、今後は定年退職者が増えるため、不足人数は2030年までに倍増する可能性もあるという。
サプライチェーンの混乱は、物に対する急激な需要増や新型コロナ禍による国外工場の操業停止などさまざまな要因で起きているとはいえ、トラック運転手の不足や物流業界の劣化が問題にいっそうの拍車をかけている。その結果、消費者が欲しい商品を欲しいタイミングで手に入れることは一段と難しくなった。