綾香さんのケースは統計では見えない貧困だ。世帯収入が高い家庭のすべてが子どもの教育費を負担するわけではない。父親は娘の教育に興味がなく、母親はすべて本人が学費を支払う考えで、世帯収入が高いため、綾香さんがどれだけ経済的に厳しくても親の収入の条件を課している日本学生支援機構の奨学金などは使えなかったという。
綾香さんは高校3年の3月、国立大学に落ちたことで私立大学に進路が決まった。大学に納入するお金の管理は、すべて母親がしている。まず母親は自分の貯蓄には手をつけずに信用金庫から教育ローンを借り、初年度納入金を支払ったそう。そのとき借りた150万円は、綾香さんが卒業後、毎月分割で母親に返すように言われていた。
入学後は半期ごとに学費として55万円を母親に渡す。そのお金は綾香さんがすべてアルバイトをして稼ぐことを言い渡された。彼女の母親は40代後半で、自分の学生時代の経験から家庭教師や塾講師をすれば、学費程度は苦労なく稼げると思っていたようだ。綾香さんは入学後すぐにナイトワークに従事することになった。
母親とは「かかわりたくない」
「大学に入ってからも私の教科書代とか授業料とか、両親が折半するってことで話を進めていたみたいでした。お母さんがお父さん側に弁護士を通じて教科書代何万円、授業料何万円払ったので何円払ってください、みたいな請求するんです。お金のことはまったく協力してくれないのに、『教科書代何円かかった?』ってくるんです。煩わしくて心からウンザリ、かかわりたくないって思いました」
母親は十分な収入はあっても、綾香さんの学費や学生生活費を負担するつもりは一切なかった。離婚調停中の夫に娘の教育費を請求して、もし支払いがあったとしても、綾香さんにはまわってこない。
結果として綾香さんと母親との距離はどんどんと離れた。最終的に綾香さんは家を出て、母親の携帯電話とLINEをブロックしてひとり暮らしをしている。大学の学費をキッカケに家族は完全に崩壊することになった。
厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」によると、1世帯当たり平均所得金額は、全世帯で552万3000円、中央値は437万円だ。また金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(2020)」によると、40代(2人以上世帯)の平均貯蓄額は1012万円だが、中央値は520万円。貯蓄ゼロ世帯も13.5%いて、決して豊かではない。
そのような平均的な家庭では、私立大学の初年度納入金約165万円、年間授業料約96万円(旺文社「2021年度 大学の学費平均額」)という金額は払えない、または払いたくないという状況だ。
毎年行われている東京私大教連の調査では、自宅外通学者への仕送り額が過去最低の月8万2400円、仕送りから家賃を除いた1日当たりの生活費は607円と最低記録を更新した。さらに保護者は受験から入学までの費用の負担感について92.2パーセントが「重い」と回答している。
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