日本が警戒すべき中国「軍民融合」知られざる怖さ 民間カーフェリーをいつでも強襲上陸に使える

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一方で、毎日のメンテナンスを繰り返していれば、そうした装備や器具に対して愛着を抱くようになるのが世の常であろう。

もちろん、日本社会と中国社会では、職業意識や職人気質など就業に対する価値観は必ずしも同じではないために断定的なことは言えないが、彼ら商業用船舶の乗組員が日々の整備を通じて軍事作戦について毎日のように意識することで、ある種の軍人意識や強い愛国心が醸成されることを習近平政権は求めているのかもしれない。

艦船の隻数や海軍将兵の数が限られた海軍力が弱小な国家であれば、やむをえない措置としてあらゆる財を軍事力に傾けることもありうるかもしれない。しかし、アメリカの報告書が指摘するまでもなく、中国は世界有数の海軍力を誇る国家であり、とくに補給艦や強襲揚陸艦などの加速度的な建造ペースを背景に人民解放軍の機動力、戦略投射能力は近隣諸国のそれをはるかに圧倒している。

こうした取り組みは、経済効率を軽視、あるいは犠牲にしても軍事作戦における民間インフラの活用を進めるという習近平政権の強い意志を物語っていると言えよう。

日本でもなじみのある海運企業が豹変するリスク

近年、国際社会は中国漁船の怪しい動きを海上民兵として警戒する議論があるが、中国の海上民兵は漁船だけに限らない。

中国の「軍民融合」、漁船や商船など民間船舶に対する普段からの動員や軍事作戦目的の装備の常設・改造が進められていることは、決して遠い海の向こうの他人事として看過できるものではない。

なぜならば、中国遠洋集団、招商局集団、中国交通建設集団などは、日本の港湾などでもなじみのある海運企業であり、そのような装備の常設化が進むことは、それらの船舶が動員命令一つで瞬時に軍事作戦に切り替えることが可能となることを意味するからである。

現在、中国では民兵や国防動員に関する法律などの見直しが行われている。詳細は明らかにされていないがその見直しの方向は、より一層「軍民融合」を目指すことに間違いはないだろう。

有事のみならず平時であっても経済活動よりも軍事活動を優先される社会、有事平時にかかわらず動員命令一つで民間企業や個人が瞬時に軍事力の手段に変身する社会、日本社会とまったく異なる風景がすぐ隣にあることをわれわれは理解しておく必要がある。

※本論で述べている見解は、執筆者個人のものであり、所属する組織を代表するものではない。

山本 勝也 笹川平和財団 主任研究員

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やまもと かつや / Katsuya Yamamoto

元海将補。防衛大学校卒業。中国人民解放軍国防大学、政策研究大学院大学(修士)修了。
海上自衛隊で護衛艦しらゆき艦長、在中国防衛駐在官、統合幕僚監部防衛交流班長、海上自衛隊幹部学校戦略研究室長、アメリカ海軍大学連絡官兼教授、統合幕僚学校第1教官室長、防衛研究所教育部長などを歴任。2023年に退官し現職。海洋安全保障、中国の軍事戦略が専門。

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