今の日本に「バラマキ政策」適さないシンプルな訳 財政出動は「乗数効果」「雇用の質」基準に増やせ

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企業が設備投資をしないのも、「目先の需要がないから設備投資をしていないだけ」と言われます。逆に、需要が先に戻れば、自動的に生産性が上がり、企業は設備投資を始めるとも論じられています。

消費税に関しては、需要を冷やしている点に特に注目し、消費税の引き上げは日本経済が成長しない原因になっているという理屈が展開されます。消費税を引き上げたから、デフレになった。そのため消費が低迷しているから、企業は投資をしないのだ。そんな極端な論理を展開する意見も見られます。

消費税の引き上げによって個人消費が冷やされてしまっているので、とりあえず消費税を減税するか廃止し、個人消費を刺激する。つまり、巨額の財政出動によって市場にお金を流し、経済を成長させるというのが、この理論を展開する方の多くが提案している処方箋です。

この論は一応、首尾一貫はしていますが、ひとことで言うと「需要至上主義」です。今回はこの論にどこまで示唆があるかを検証したいと思います。

「いまはデフレ不況だ」という洗脳

先の総選挙の際も、野党各党により消費税の減税または廃止が提案されました。理屈は先ほど紹介した主張と同じです。GDPが伸びないのは需要が足りていないからで、減税によって需要を刺激すれば経済が回復するとされていました。

たしかにケインズ経済理論では、金利が低迷しているときは金融政策の有効性が低下するので、金融政策だけでは経済は回復しないとされています。そんなときほど積極的に財政出動をするべきであると示唆されています。

今日の日本でも、仮に需要が足りていないことが原因となってデフレ不況になっているのであれば、話は簡単です。ケインズ経済学に基づいてインフレが2%に達するまで大胆な財政出動を行えば、経済は回復するでしょう。

しかし、ケインズ経済学で論じられているデフレ不況対策を正当化するには、当然ですが日本がデフレ不況に陥っていなくてはいけません。今までGDPが伸びていない原因は需要不足であり、人口減少などの他の要因は主要因ではないということにしないと、理屈が合わなくなります。

だからこそ、インフレ派の人は「20年間の不況だ!」「デフレだ!」「需要が不足している!」「財政だ!」という洗脳戦略を講じるのに熱心なのです。

しかし、この理論は本当に事実を正確に捉えているのでしょうか。この20年間の経済低迷は需要不足によるデフレ不況だったのでしょうか。

私が「デフレ不況だったのか否か」にこだわるのは、その答えによって、財政出動の「乗数効果」がまったく異なるからです。

ケインズ経済学では、不況のときに財政出動を行えば、需要が増え、それに伴い失業者が減り、需給の均衡がもとに戻ると論じられています。ここで、「財政出動の何倍の需要が増えるのか」を表すのが「乗数効果」です。たとえば乗数が3なら、1億円の財政支出で需要が3億円分増えることになります。

経済学の教科書には、「乗数=1/(1-限界消費性向)」と計算できるとあります。限界消費性向が90%ならば、財政出動による経済効果は1/(1-0.9)=10です。つまり100兆円の財政出動を行えば、1000兆円の経済効果が得られるとされます。

次ページデータを見ると「教科書通り」には進まないことは明白
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